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ごく初期の患者さんで妊娠を強く希望する場合、妊孕性(にんようせい)温存のため「子宮全摘術」を行わず、代わりに「黄体ホルモン療法(MPA療法)」を行う場合があります。
妊孕性とは「妊娠するための力」のことです。将来の妊娠に備えて、「妊娠するための力」を温存するのが「妊孕性温存」です。
「黄体ホルモン療法」を受けられる患者さん
妊孕性温存のための「黄体ホルモン療法」を受けられるのは、妊孕性温存を強く望んでいる患者さんです。それに加えて以下の①と②、どちらかの条件を満たしていることが必要です。
①「子宮内膜異型増殖症」の患者さん(保険適応外)
②子宮体がんの患者さんで、以下の2つの条件を満たしている場合
・組織型が「類内膜がん」でグレードが1
・がんが子宮内膜にとどまっていて、子宮内膜の下にある「筋層」には広がっていない
条件を満たしているかどうかを確認するには、病理組織検査と画像検査が必要です。また、治療中も子宮内膜増殖症や子宮体癌が進行していないか厳重な経過観察が必要になる。定期的な細胞診、組織診検査や、MRI画像検査での評価が必要になる。
1) 病理組織検査
子宮内膜の全面掻爬(そうは)を行います。この検査の目的は、子宮内膜の組織全体を採取することです。全面掻爬を行うと強い痛みがあるため、麻酔をかけた上で行います。
採取した組織は、顕微鏡を使って詳しく調べます。その結果「子宮内膜異型増殖症」であれば、上記の①の条件を満たすことになります。また、「類内膜がん」でグレード1という診断であれば、上記の②の条件の一部を満たすことになります。
2) 画像検査
MRI検査で得られた画像を細かくチェックして、子宮体がんが子宮内膜をこえて筋層に浸潤していないことを確認します。合わせて、子宮の外にがんが広がっていないことも確認します。両方が確認できた場合、1)の検査で「類内膜がん」でグレード1という結果であれば、②の条件を満たすことになります。
3) 「黄体ホルモン療法」は、どのような治療なの?
薬の服用と同時に、その効果を確認するために定期的に通院して検査を受ける必要があります。
① 服用する薬と副作用
高用量(多量の)黄体ホルモン「MPA(メドロキシプロゲステロン酢酸エステル)」を1日に200〜600mg内服します。これを4~6カ月続けます。
副作用としては肥満、肝機能障害、血栓症などがあります。特に、血栓症には注意が必要で、脳梗塞や心筋梗塞、肺塞栓症といった重大な病気につながる場合があります。
そのため、肥満の人、過去に血栓症になったことがある人など、血栓症のリスクが高い人は、黄体ホルモン療法を受けることができません。血栓症のリスクがない人も、血栓症の予防のため治療中は定期的な血液検査を行うだけでなく、血栓の予防のために低用量のアスピリンを服用する場合があります。
② 定期的な通院
治療の効果を確認するため、1カ月に1回程度通院して、超音波検査、子宮内膜の組織診検査や細胞診検査、骨盤MRI画像検査を行います。
子宮内膜の組織診検査の代わりに、子宮内膜の全面掻爬を行う場合があります。その目的は、子宮内膜の状態を詳しく調べるだけでなく、異型細胞やがん細胞を除去するという治療的な狙いもあります。
治療の効果があった場合も経過観察が必要
黄体ホルモン療法で効果が出たために治療を終了した後も、定期的な経過観察が必要です。3~4カ月ごとに内膜細胞診や超音波検査を行います。
妊娠の希望がない場合は、再発する可能性があるので子宮摘出術が基本となりますが、厳重な経過観察を行う場合もあります。
2012年に行われた検討の結果によると、子宮内膜増殖症、子宮内膜にとどまっている類内膜がん(G1)に対して黄体ホルモン療法を行ったところ、効果があったのは78%でした。また、治療後に妊娠した例はそれぞれ41%、35%でした。一方、その後再発した割合もそれぞれ23%、35%でした。
黄体ホルモン療法後の妊娠について
黄体ホルモン療法後に排卵誘発を行うことについて、「安全である可能性は高い」とされていますが、まだ十分な根拠が得られていない状態です。医師と充分に相談しながら治療を進めることが大切です。
黄体ホルモン療法の効果が見られなかった場合
また、再発してしまった場合
黄体ホルモン療法を行っても効果が見られなかった場合、また、異型細胞やがん細胞がいったん消えた後に再発してしまった場合は、子宮全摘出術を行うのが望ましいとされています。その理由は、次の通りです。
- 異型細胞が子宮体がん化するリスクや、子宮体がんが進行してしまうリスクがある
- 40歳未満の子宮体がんは、40歳以上の子宮体がんよりも卵巣に転移するリスクが高い。さらに、子宮体がんだけでなく「卵巣がん」も発生している場合がある
- 治療中の評価も十分でない可能性もあり、進行している可能性もある
また、再発した患者さんに対して、再びホルモン療法を行うことが有効なのか、はっきりした結論が出ていない状態です。
これらの点も理解した上で治療方針を決めることが重要です。