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前立腺がん|副作用を最小限に抑える小線源治療とは

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小線源療法は、放射線治療の一種です。放射線治療は、放射線を使ってがん細胞を攻撃する方法で、十分な治療効果を得るには、一定量の放射線をがん細胞に当てる必要があります。しかし放射線の量を増やすと、前立腺の周りにある臓器(直腸・膀胱など)に与えるダメージも大きくなります。このダメージを最小限に抑えるために開発されたのが「小線源療法」です。

小さな「線源」を前立腺に埋め込み
前立腺がんを治す

小線源療法では、放射線を放出する小さなカプセルを前立腺全体に埋め込みます。カプセルの直径は0.8mm、長さは4.5mmで、ごく小さなサイズです。カプセルのすぐ近くでは放射線の線量が高い状態ですが、数ミリ離れると線量が大幅に低下します。このため、前立腺内部だけに作用して、周りの臓器に与える影響は最低限に抑えることができるのです。

小線源療法で使われるチタン製カプセ画像
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小線源療法で使われるカプセル
チタン製のカプセルの中に放射性物質(ヨウ素125)が封入されている

カプセルの埋め込みは、会陰部(肛門と陰のうの間)から行われます。まず直腸にエコーを挿入、前立腺の位置を確認しながら会陰部から針を刺します。次に、その針を使って線源を挿入します。

埋め込むカプセルの数は60~80個ほどで、患者さんの前立腺の大きさによって調整します。前立腺内を通る尿道や、ほかの臓器(直腸や膀胱)への影響を最低限にするため、コンピュータで計算した位置にカプセルを置いていきます。

カプセルの埋め込み時のCT画像
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白く写っているのがカプセル。
前立腺全体に埋め込むことで、全体に放射線を照射する


前立腺がんワンポイント 01

カプセルを埋め込んだまま
それって大丈夫なの?

「小線源療法」で埋め込んだカプセルは、取り出すことがありません。

それでも問題がない第1の理由は、チタンの性質にあります。チタンは身体に悪影響を与えず腐食にも強い性質があるため、人工関節やインプラント(人口歯)にも使用されている金属です。

第2の理由は、カプセル内の放射性物質が放出する放射線は、時間とともに減少する性質があるからです。「小線源療法」に使用される放射性物質、ヨウ素125は約60日で放射能が半減するという性質があります。このため1年後には64分の1の放射能に低下します。


前立腺がんワンポイント 02

なぜ、放射線でがんを治療できるの?

放射線が、がん細胞のDNAに当たるとDNAが破壊されます。これを「直接作用」と呼びます。それとは別に、放射線が水分子に当たると、フリーラジカルと呼ばれる物質が発生します。このフリーラジカルにも、がん細胞のDNAを攻撃する力があります。

放射線の「直接作用」「間接作用」でがん細胞のDNAが破壊されると、がん細胞は増殖できなくなります。この作用を利用したのが、放射線治療なのです。なお、X線やガンマ線によるがんの治療効果は、「直接作用」よりも「間接作用」の方が大きいことがわかっています。

「小線源療法」のメリットとデメリット

メリット


1.外照射(IMRTなど)との比較

・前立腺内部に高線量の照射ができる(がん細胞を攻撃する力が大きい)

・短期間で終了する

IMRT(強度変調放射線治療)は、週5回の治療で約2カ月かかります。一方、小線源療法は1回の治療で終了します。治療にかかる時間は1時間程度で、当日は入院が必要ですが翌日には退院できます。

2.手術療法との比較

・性機能障害や排尿障害のリスクが低い

・低侵襲のため、合併症のリスクが低い

デメリット


1.外照射(IMRTなど)との比較

・線源を埋め込むための侵襲があり、入院が必要になる

2.手術療法との比較

・放射線障害が起こるリスクがある

「小線源療法」の合併症について

治療直後は、針を刺した部分の軽い痛み、血尿、排尿困難、排尿時痛などがあります。
その後残尿や頻尿などが起こり、勃起障害が起こる場合もあります。これらの症状は半年ほどで改善することがほとんどですが、1年以上継続する場合もあります。

「小線源療法」が適応になる条件

1.前立腺内にとどまっている低リスクがん

小線源療法の場合、放射線は、線源のすぐ近くにしか届きません。そのため、前立腺内にとどまっている低リスクの前立腺がんが対象になります。
なお「低リスク」と判断される条件は以下の通りです。

PSA(腫瘍マーカー):10以下   
ステージ(病期):T2a以下   
グリソンスコア(悪性度) :6以下   

2.前立腺の体積が基準値以下

前立腺の体積が大きくなるほど、埋め込む線源の数を増やす必要があります。すると体外に放出される線量も多くなるため、前立腺の体積がある数値を超えると、手術後に隔離が必要になってしまいます。しかし、線量が低下するまでの間、患者さんを隔離することは現実的ではないため、前立腺の体積に上限が決められているのです。上限を超える場合は、前立腺を小さくするためにホルモン療法を行い、体積が基準以下になったところで「小線源療法」を実施する場合があります。


前立腺がんワンポイント 03

前立腺がんの治療の幅を広げた「小線源療法」

現在、体の外から放射線を当てる「外照射」による前立腺がん治療には、「三次元照射」「IMRT(強度変調放射線治療)」などがあります。これらの技術が生まれる前は、前立腺がんの放射線治療は困難で、手術療法が中心でした。

放射線治療が困難だった理由は、前立腺の真上には膀胱、直後には直腸があるからです。そのため、前立腺がんを攻撃するために必要な線量を照射すると、膀胱や直腸にも大きなダメージを与えることになります。

この問題をクリアするために開発されたのが「小線源療法」です。線源から数ミリ離れると線量は極端に低下するため、膀胱や直腸に与える影響は小さくなります。この特徴を利用することで、放射線による前立腺がん治療が可能になり、高齢のため手術が行えない患者さんの根治的な治療が可能になったのです。

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