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肺がんの検査 組織を採取して調べる「生検」を行うのはなぜ?

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肺がんの確定診断の際に、組織を採取して検査する「生検」が行われる場合があります。「生検」は、肺がんが疑われる部分の組織を採取する検査なので、患者さんに負担がかかります。それでも「生検」が行われるのは、なぜなのでしょうか?

1.診断の精度を高めるため

CTの画像を使った診断には限界があります。画像上ではがんが疑われる場合も、実際に組織を調べると、がんではない場合もあります。そのため、肺がんが疑われる部分の組織を採取して検査する「生検」が行われることがあるのです。

2.治療方針を決めるため

肺がんは、がん細胞や組織の状態で分類される「組織型」が異なると、治療方針も異なります。組織型を確認するためには、組織を採取して顕微鏡で調べる「病理検査」が必要です。そのために「生検」が行われるのです。

3. 遺伝子変異を調べるため

薬物療法で抗がん剤を選ぶ際には、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使えるかどうか、そしてどのくらいの効果が期待できるかを判断する必要があります。肺がん治療には多くの種類の薬剤と遺伝子診断が使われており、すでにプレシジョン・メディシンが実用的な状況にあります。この診断を行うためには、ある程度まとまった大きさの組織が必要になるため、「生検」を行って肺の組織やリンパ節を採取します。生検は患者さんの体に負担がかかるため、採血などの方法で診断する方法も開発中ですが、まだ実用化されていない状況です。

検診で行われる検査

・胸部X検査

健康診断や検診で行われる検査で、「スクリーニング検査」とも呼ばれます。スクリーニングは「ふるいわけ」という意味で、がんの疑いがある人を見つけるために行われます 。

胸部X検査によって肺にがんが疑われる影があった場合、精密検査が行われます。

・喀痰(かくたん)細胞診

肺がん検診などで行われる検査で、胸部X検査と同様、肺がんのスクリーニング検査のひとつです。対象は肺がんのハイリスクの人です。

喀痰細胞診では、3日分の痰を採取して顕微鏡で調べます。がんが肺門部にできた場合、がん細胞やがん化が疑われる細胞が痰に混ざって体外に出てくることがあります。そのような細胞が痰の中に含まれていないかを調べます 。

●ハイリスクの定義
・50歳以上で喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人
・40歳以上で6ヵ月以内に血痰のあった人

精密検査

・胸部CT検査

CTはComputed Tomography(コンピュータ断層撮影)の略です。X線を使って体の断層撮影(輪切りの画像を撮影)ができるため、体にメスを入れることなく体内の様子を確認できます。

CTの装置にはドーナツ状の部分があって、この中にX線管(X線を照射する装置)とX線の検出器が入っています。これを高速で回転させて得られたデータをコンピューターで処理することで輪切りの画像を作成します。1確定診断のための検査です。

確定診断のための検査

画像診断(胸部X線検査・CT)では、肺がんであると確定することはできません。理由は、肺がんを疑われる所見があっても、実際には肺がんではない場合があるからです。そのため、肺がんが疑われる部分の組織を採取します。その組織を検査して、肺がんであることが確認されたときに「確定診断」となります。

確定診断のために行われるのは、次のような検査です 。

1)気管支鏡検査

気管支鏡は気管支内の状態を確認するための器具で、5mm程度の細い管の先に小型のカメラがついています。これを気管支内に挿入して、先端のカメラで気管支内の状態を確認します。カメラとは別に組織を採取するための鉗子がついているので、病変部分の組織を採取できます。

検査のリスクとしては、肺・気管からの出血、気胸、発熱や肺炎、麻酔薬によるアレルギーや中毒などがあります。検査には、次の4種類があります。

① 直視下経気管支生検

内視鏡の画像を確認しながら病変がある部分まで気管支内視鏡を挿入。鉗子を使って組織を採取します。

気管支鏡で得られる気管支内の映像。この映像によって気管支内の状態を確認できる。病変であることが疑われる部分は、細胞や組織を採取することもできる。

② 経気管支肺生検(TBLB:Transbronchial lung biopsy)

気管支鏡を挿入できる位置まで進め、そこから先は気管支鏡の中にワイヤを通して進めます。ワイヤの位置をレントゲンで確認しながら、病変までワイヤを進めます。病変に到達したら、ワイヤの先端についた器具で組織を採取します。

③ ガイドシース併用気管支内腔超音波診断(EBUS-GS:Endobronchial ultrasonography with a guide sheath)

TBLBには、レントゲンを使って位置を確認するため次のような問題点があります。

・縦隔や横隔膜に隠れる病変を見つけるのが難しい

・小さい陰影の位置を確認するのが難しい

この問題を解決するために開発されたのが超音波を使うEBUS-GSです。超音波を発信するプローブの直径は1.4mmしかないので細い気管支内にも挿入できます。超音波で得られた画像を確認しながら、病変がある位置で止め、鉗子で組織を採取します。

④ 超音波気管支鏡ガイド下針生検(EBUS-TBNA:endobronchial ultrasound guided – trans bronchial needle aspiration)

気管・気管支周囲の病変に針を刺して組織を採取する「針生検」を行う検査です。気管支に挿入する管の直径は7mmほどで、先端にはカメラと超音波を出す装置がついています。カメラの画像を確認しながら病変の近くまで進み、次に、超音波の画像を確認して血管を避けながら、病変部分に針を刺して細胞を採取します。

2)CTガイド下肺生検

針を刺して細胞を採取する方法です。痛みがあるため局部麻酔をした上で実施します。確実に病変部分に針を刺すために、CTで位置を確認しながら行います。

検査のリスク:肺を覆っている胸膜に外から穴をあけるため、そこから空気が漏れて「気胸」と呼ばれる合併症をおこす可能性があります。ほかにも肺・気管からの出血、発熱や肺炎、麻酔薬によるアレルギーや中毒があります。気胸と出血は、気管支鏡検査よりもリスクが高くなります。

ごくまれに病変が肺がんだった場合、針を刺すことで胸腔内にがん細胞がこぼれ落ちてしまうことがあります。

転移の有無を確認する検査

肺がんの治療では、転移がない場合とある場合では治療方針が異なるため、転移の有無の確認が非常に重要です。

肺には多くの血管がつながっていますし、肺の周辺には多くのリンパ管が存在します。そのため、肺がんの組織からこぼれ落ちたがん細胞が、血液やリンパ液、また胸水に乗って全身に広がることがあります。このため肺がんの疑いが強い場合、また肺がんの確定診断がされた場合、転移の有無も確認する必要があります。肺がんが転移しやすい脳、骨、副腎、肝臓を中心に全身を検査します。

1)CT・MRI

CTは、主に肺の周辺部分に転移がないかを確認するために行われます。一方MRIは、脳や血管に転移がないかを確認するために行われます 。

2)骨シンチグラフィ

骨シンチグラフィは、骨への転移の有無を確認するために行います。

骨は生きている組織で、破壊と再生を繰り返しています。これを「代謝」と呼びます。がん細胞が骨に転移すると骨の代謝に異常が起こり、骨が固くなる、または、骨が溶けたような状態になります。

骨シンチグラフィを行うと、全身の骨に関して、代謝に異常がないかをチェックできるため、骨への転移の有無を確認できます。

骨シンチグラフィで得られた画像。がんの存在が疑われる部分は黒く写る。

3)PET

PETは全身をチェックして、肺がんの転移がないかを確認する検査です。この検査には、空腹時の血糖値が200ml/dl以上の場合、正確な結果が得られないという性質があります。そのため空腹時の血糖値が200ml/dl以上でPETの検査をする場合、血糖値のコントロールが必要になります。

検査を行う前に微量の放射線を放射する物質「18F-FDG」を注射します。18F-FDGは、がん細胞により多く集まる性質があるので、がん細胞がある部分から放射される放射線量は、がん細胞がない部分よりも多くなります。

PET検査は、18F-FDGから放射される放射線量が多い部分を可視化できるので、転移の有無を確認できるのです。

左の画像: PETで得られた画像。がんの存在が疑われる部分は黒く写る。ただし正常な臓器の一部(脳・腎臓・膀胱など)も黒く写るので、それ以外の部分を確認する。

右の画像:PET-CT融合像(PETの画像とCTの画像を融合したもの)。2種類の画像を融合することで、より精度の高い診断が可能になる。

18F-FDGの形状は、細胞のエネルギー源「グルコース(ブドウ糖)」に似ています。そのため細胞は18F-FDGを取り込みます。がん細胞は、正常細胞よりも多くのブドウ糖を必要とするため、正常細胞より多くの18F-FDGを取り込みます。その結果、がん細胞がある部分からは、より多くの放射線が放射されるのです。

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監修医師

小島 史嗣 Fumitsugu Kojima

聖路加国際病院
専門分野:呼吸器外科

専門医・認定医:
日本外科学会 専門医、日本呼吸器外科学会 専門医・認定ロボット手術プロクター、日本がん治療学会 認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


後藤 悌 Yasushi Goto

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
専門分野:臨床腫瘍学

専門医・認定医:
日本内科学会認定内科医 総合内科専門医 指導医、日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 指導医、日本がん治療認定機構 がん治療認定医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医 指導医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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