LA Butterfly

子宮頸がん ステージⅠとⅡの治療法

–>

療法の中心は手術療法です。手術療法として行われるのは、一般的に子宮を全て摘出する「子宮全摘手術」です。一方ステージⅠ期では、妊孕性(にんようせい)温存治療のため「子宮全摘手術」とは違うタイプの手術が可能な場合があります。妊孕性とは「妊娠するための力」のことで、将来の妊娠に備えて「妊娠するための力」を温存するのが「妊孕性温存」です。詳しくは「ステージⅠでは将来の妊娠に備える治療が可能な場合がある」をご覧ください。

Ⅰ期とⅡ期では、手術療法が中心になるので、ここでは手術療法について詳しく説明します。放射線治療については、「放射線療法」をご覧ください。

手術療法には3つの種類がある

子宮頸がんの手術療法で行われる「子宮全摘手術」には、3種類の方法があります。それぞれ切除する範囲が異なっていて、切除範囲が小さい方から順に「単純子宮全摘出術」「準広汎子宮全摘出術」「広汎子宮全摘出術」となります。

3つの手術法のうち、切除範囲が一番広い「広汎子宮全摘出術」が標準治療ですが、初期がんにあたるIA期では、切除範囲を狭くした「単純子宮全摘出術」または「準広汎子宮全摘出術」が行われます。合わせてリンパ節郭清を行う場合もあります。
IB期以降では、「広汎子宮全摘出術」を行います。この場合、リンパ節郭清も同時に行います。

●「リンパ節廓清」とは?
子宮頸がんはリンパ節に転移しやすい性質があります。そのため、子宮を切除するだけでなくリンパ節も切除するケースが多いのですが、その場合「リンパ節郭清」という方法で行われます。

1) 単純子宮全摘出術

基靱帯(きじんたい:子宮を支える組織)などの子宮頸部のまわりの組織は取らず、子宮だけを切除します。

2) 準広汎子宮全摘出術

単純子宮全摘出術よりも少し広い範囲を切除します。子宮だけでなく、基靭帯の一部と、腟も十分に切除します。

3) 広汎子宮全摘出術

準広汎子宮全摘出術よりも広く切除します。子宮だけでなく、基靭帯と膀胱子宮靱帯(膀胱と子宮をつなぐ組織)、腟も数cm程度切除します。そのほかにも子宮の周りにあるリンパ節を切除する「リンパ節郭清」も行われます。

広範囲に切除を行うため、膀胱や直腸に関連する神経が広範囲に切断される場合があり、術後に排尿のトラブルなどが起こることがあります。また、リンパ節郭清の影響で、リンパ浮腫が起こる場合もあります。

「単純子宮全摘出術」「準広汎子宮全摘出術」「広汎子宮全摘出術」の3つの手術は、以下の3種類の方法で行われます。

・開腹手術
・腟式手術
・低侵襲手術(腹腔鏡かロボット手術)」

日本では、主に「開腹手術」と「腹腔鏡手術」が行われています。

手術療法は「根治」と「QOL」のバランスをとりながら行われる

手術後に、再発や転移が起こる確率を減らすためには、がん細胞が転移している可能性がある部分も切除する必要があります。その結果、切除範囲は広くなります。しかし、切除範囲を広くすると、その分だけ合併症のリスクが高くなり、実際に合併症が起これば術後のQOL(生活の質)が低下します。

そのため手術のプランを立てるとき、また、実際に手術を行う際には、「再発や転移を避ける」と「QOLの低下を避ける」という2つの要素のバランスをとりながら進められているのです。

1) 卵巣温存

子宮頸がんの手術で子宮だけでなく卵巣も摘出するのは、子宮頸がんが卵巣に転移しやすい性質があるからです。その一方で、特に閉経前の女性の卵巣を摘出すると「ホットフラッシュ」と呼ばれる症状が起こるだけでなく、骨粗鬆症のリスクも高まるなどの問題があります。そのため患者さんの年齢、ステージや腫瘍の大きさ、組織型などの条件を考慮して、可能な場合には卵巣の温存(卵巣を摘出せず、残すこと)が行われています。

2) リンパ浮腫を防ぐため「リンパ節郭清」を回避する研究は行われているが、治療への応用は始まっていない

子宮頸がんは、子宮の周りにあるリンパ節に転移しやすいため「広汎子宮全摘出術」では基本的にリンパ節郭清を行います。それよりも切除範囲が狭い「単純子宮全摘出術」と「準広汎子宮全摘出術」でも、リンパ節郭清を行う場合があります。

リンパ節郭清を行うのは、子宮頸がんの再発や転移を防ぐためですが、一方で「リンパ浮腫」と呼ばれる症状が起こるリスクがあります。このリスクを下げるには、リンパ節郭清の範囲を減らす必要があります。そのために行われているのが、「センチネルリンパ節生検」という研究です。

「センチネルリンパ節」は、腫瘍がリンパ節に転移する際、最初に転移するリンパ節です。そこで「センチネルリンパ節」を切除して検査を行い、転移がないことを確認できれば、それ以外のリンパ節にも転移がないと推定できます。つまり、リンパ節郭清を省略できるのです。

すでに、乳がんの手術ではセンチネルリンパ節の検査を行い、センチネルリンパ節に転移がない場合には、リンパ節郭清を省略する方法がとられています。一方、子宮頸がんでは、センチネルリンパ節に転移がない場合にリンパ節郭清を省略する方法について、いまだ研究段階にあります。今後、研究が進み、実際の治療に応用されることが望まれます。

手術の後に「術後補助療法」を行う理由は子宮頸がんの再発を防ぐため

ⅠB期とⅡ期で手術療法を行った場合、手術後に「術後補助療法」を行う場合があります。「術後補助療法」を行う理由は子宮頸がんの再発を防ぐためで、放射線療法や同時化学放射線療法(放射線療法と化学療法を同時に実施する)が行われます。
術後補助療法は、再発リスクが「中」〜「高」と判断された場合にだけ行います。リスクが低いと判断された場合には行われません。

再発リスクは、以下の要素から判断されます。

・腫瘍の大きさ
・子宮内での浸潤の深さ
・子宮の周りにある組織への浸潤
・脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)
・リンパ節への転移があるか など

例えば、リンパ節転移や子宮外進展(子宮の外にがんが広がる)がある場合、そうでない場合と比べると再発のリスクが高いことがわかっています。そのため、再発を予防するために「術後補助療法」が提案されるのです。

●「脈管侵襲」とは?
「脈管侵襲」とは、「脈管」にがん細胞が広がっている状態です。「脈管」とは、血管やリンパ管のことです。つまり「脈管侵襲」は、がん周囲の血管やリンパ管にがん細胞が広がっている状態で、「リンパ節転移」の手前の状態を指します。子宮頸がんが転移する場合、がん細胞は脈管を通るため、「脈管侵襲」が陽性の場合、転移・再発の危険性が高くなります。

術後病理診断の結果は再発リスクを決める際の重要な情報になる

手術療法で切除された組織は、顕微鏡を使って細かく調べます。目的は、実際に腫瘍がどのくらい進展しているかを診断するためです。これを「術後病理診断」と呼びます。

子宮頸がんでは、術前に行うMRIやCTなどの画像検査によっておおまかな腫瘍の広がりを想定して、術前にステージを決定します。しかし、「術後病理診断」によって実際の腫瘍の進展がわかるので、この情報をもとに再発リスク分類を決め、術後補助療法を行うかどうかを検討します。つまり患者さんの状態に合わせて、その後の治療を選択できるわけで、これは手術療法の優れた点だと言えます。

一方、子宮頸がんの治療では、ステージⅠ期、Ⅱ期の場合に手術療法ではなく、放射線療法が選択される場合があります。放射線療法では、組織を切除することがないため、病理検査を行うことができません。そのため、手術療法のように詳細な情報を手に入れることができないのです。

患者さんへの負担を減らす「腹腔鏡下手術」 現時点では限られた施設のみで実施

子宮頸がんの手術療法のうち、早期がんでは「腹腔鏡下手術」が選択肢のひとつになる場合があります。「腹腔鏡下手術」には創の大きさが小さい、術後の回復が早いなどのメリットがあります。反面、症例選択をかなり厳格に行わないと、開腹手術よりも再発や死亡のリスクが高いことが報告されています。

2020年現在、腹腔鏡下の「広汎子宮全摘出術」は限られた施設でしか行われていません。大切なのは、安全に子宮頸がんの治療を行えることです。現段階では、実際に「腹腔鏡下手術」を行うかについて、慎重な検討が必要です。

●「腹腔鏡下手術」とは?
「腹腔鏡下手術」は「内視鏡手術」と呼ばれることもあります。通常の手術では、お腹を大きく切除しますが、腹腔鏡下手術では5mm~12mmの穴を4~5ヶ所開けるだけです。そのため患者さんの体に与える負担を小さくすることができるのです。
開けた穴にはポートと呼ばれる器具を挿入。その後、ポートの1つから腹腔鏡を挿入します。腹腔鏡にはカメラがついていて、お腹の中の様子がモニターに映し出されます。残りのポートからは、鉗子(かんし)と呼ばれる器具を挿入します。鉗子の先端には、はさみ、電気メス、ピンセットなどが付いています。モニターを見ながら、鉗子を操作することで手術を進めていきます。

手術療法の合併症

手術の後に起こる合併症には、排尿のトラブル、リンパ浮腫(足や下腹部がむくむ)、便秘、腸閉塞、卵巣の切除による更年期障害と同様の症状などがあります。気になる症状があるときは、医師や看護師に相談しましょう。

1) 排尿のトラブル

広汎子宮全摘出術では、子宮を支える役割を果たす「基靭帯(きじんたい)」を広く切除します。この基靭帯の中には、排尿に関係する神経が走っているため、広汎子宮全摘出術の後に排尿障害が起こることがあります。

症状は、以下のようなものです。

◯尿がたまった感じがわかりにくい
◯尿を出しにくい・残尿感がある
◯尿がもれる など

個人差がありますが、多くの場合、手術後数週間から数カ月で改善します。退院後も一時的に「自己導尿」が必要になる場合があります。「自己導尿」は、ご自身で細いストローのような管を尿道に挿入し、排尿することです。

2) リンパ浮腫

手術の際にリンパ節を切除する「リンパ節郭清」を行うと、リンパ液の通り道であるリンパ節とリンパ管が切り取られてしまいます。その結果、リンパ液の通り道が少なくなり、足や下腹部にリンパ液がたまり、その部分がむくんでしまいます。

リンパ浮腫の発症後、その状態を放置しておくと症状が悪化して、関節が曲がりにくくなるなど日常生活に支障が出ることがあります。むくみがある、左右の足の太さが違う、重さやだるさなどを感じるなどの症状があります。

① 予防法

リンパ液の流れをよくするために適度に運動をする、肥満に注意する(体重が増えると発症のリスクが高くなる)、皮膚を清潔に保つ、無理をしないことなどが大切です。

② 治療

個別の症状に合わせて、以下の4つの治療を組み合わせて行います。一部はセルフケアも可能で、そのための指導も行われます。また症状によっては「リンパ管吻合術」という手術療法がとられることもあります。

●「リンパ管吻合術」とは?
リンパ浮腫は、リンパ液が皮下組織にたまることで起こります。皮下組織にリンパ液がたまってしまうのは、「リンパ節郭清」を行うことでリンパ節を運ぶ「リンパ管」が閉塞してしまうからです。
「リンパ管吻合術」は、リンパ管が閉塞した部分(足の付け根)より先(下肢)にリンパ管と静脈のバイパスをつくる手術です。完成したバイパスによって、たまっていたリンパ液が回収されることで、リンパ浮腫の症状が改善することが期待できます。

③ リンパ浮腫の治療は保険で行える

リンパ浮腫の治療の一部は、保険適用が認められています。

④ リンパ浮腫の治療を受けられる病院はどのように探せばいい?

国立がん研究センターがん情報サービスには「病院を探す」というコンテンツがあります。
https://hospdb.ganjoho.jp/kyotendb.nsf/
上記のページ内に、「がん診療連携拠点病院などのリンパ浮腫外来を探す」というメニューがあります。ここから「リンパ浮腫外来」がある医療機関を探せます。

3) 腸閉塞

手術をすると、しばらくの間、腸の動きが悪くなります。また、おなかの中の創と腸の癒着が起こることがあります。その結果、腸内の食べ物や水分の流れが悪くなり、腹痛、嘔吐、ガスが出にくくなるなどの症状が出て、食事がとれなくなります。
多くの場合、一定の期間食事をとるのをやめて腸を休めることで回復します。ただ、ごくまれに、腸にチューブを入れる処置や手術が必要になる場合があります。

4) 卵巣摘出による、更年期症状と同様の症状

閉経前の女性が手術療法を受けて卵巣を摘出すると、卵巣から分泌される女性ホルモン「エストロゲン」が供給されなくなります。その結果、ほてり、のぼせ、発汗などの症状が起こります。こうした一連の症状は「ホットフラッシュ」と呼ばれています。
ホットフラッシュは、更年期障害の症状としても知られています。更年期になると卵巣から分泌されるエストロゲンの量が減り、ホットフラッシュが起こります。これと同じことが、閉経前の女性が子宮頸がんの手術療法を受け、子宮と同時に卵巣を摘出した場合にも起こり得ます。初期がんで条件がそろっているときには、卵巣の温存を行う場合もありますが、一般的には卵巣を摘出します。

卵巣摘出を行った場合、ホルモン補充療法が行われることがあります。

●ホルモン補充療法とは?
薬剤を使って女性ホルモンのエストロゲンを補充する治療です。エストロゲンを補充することで、「ホットフラッシュ」を緩和することができます。
ホルモン補充療法は2種類あり、患者さんの状態によって使いわけられています。子宮頸がんの治療で子宮と卵巣を摘出した方の場合、エストロゲンのみを投与します。

2種類のホルモン補充療法

●ホルモン補充療法の副作用
ホルモン補充療法を行うと肝機能障害や血栓症、乳がんのリスクが高まるので、定期的な血液検査と乳がん検診を受ける必要があります。また、以下の方は、ホルモン補充療法を受けることができません。
・乳がんを治療中、または以前に乳がんを発症した方
・脳卒中や心筋梗塞になったことがある方
・血栓症の薬を飲んでいる方

ホルモン補充療法を受けることで、子宮頸がんの再発リスクが上昇するかについては、扁平上皮がんの場合、再発リスクが増加するという報告はありません。一方、腺がんの場合は、再発リスクが上昇するかどうか、はっきりした結果が出ていないため、医師と相談することをお勧めします。

このページも読まれてます
監修医師

金尾 祐之 Hiroyuki Kanao

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科

専門医・認定医:
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


温泉川 真由 Mayu Yunokawa

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:腫瘍内科(主に婦人科がん)

専門医・認定医:
日本産科婦人科学会専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本細胞学会細胞診専門医、日本臨床腫瘍学会指導医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


田中 佑治 Yuji Tanaka

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科

専門医・認定医:
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本産科婦人科内視鏡学会腹腔鏡技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

子宮頸がんTOPへ戻る