膀胱がんは、尿をためる「膀胱」にできるがんです。膀胱は袋状の臓器で、袋の部分は多層構造になっています。そのうち一番内側の「上皮」と呼ばれる部分に、膀胱がんは発生します。
近年、膀胱がんの患者さんの数は増加していて、特に60歳代以降で多くなります。また、女性よりも男性の方が病気になる確率が高いという特徴があります。
初期の膀胱がんの主な自覚症状は血尿です。膀胱がんは、喫煙者で発症のリスクが高くなることがわかっているので、膀胱がんの予防のためにも禁煙が大切です。
膀胱の役割は尿をためること
腎臓は、血液中に含まれている老廃物を濾過して、尿をつくる役割を果たしています。つくられた尿は「腎盂(じんう)」と呼ばれる部分に集められ、「尿管」の中を通り、「膀胱」に運ばれます。
膀胱は袋状の臓器で、尿管を通って運ばれてきた尿を一時的にためる役割を果たしていて、成人では300~500mLの尿をためることができます。膀胱内にある程度の量の尿がたまると尿意を感じます。そしてトイレに行き放尿すると、膀胱にたまっていた尿は、尿道を通って体の外に排泄されます。
膀胱がんは「上皮」から発生する
膀胱の袋の断面は、4層構造になっています。
4層構造のうち、内側の部分は「上皮」と呼ばれる粘膜です。上皮の下層には「間質」と「筋層」があり、膀胱の外側の部分は「脂肪組織」で包まれています。
ほとんどの膀胱がんは、膀胱の内側を覆っている上皮から発生します。上皮から発生したがんが筋層には広がっていない場合と、筋層まで広がっている場合では、治療方針が大きく異なります。そのため、膀胱がんの診断では、がんが筋層まで広がっているかどうかを確認することが非常に重要です。
「上皮」は、膀胱の内側を覆う粘膜ですが、腎盂(じんう)、尿管、尿道の内側も、同じ性質をもった粘膜で覆われています。そのため膀胱がんは、腎盂、尿管、尿道にも広がる場合があります。膀胱の内部に膀胱がんが見つかった場合には、腎盂、尿管、尿道も検査して、膀胱がんが広がっていないかを確認します。
膀胱がんの患者さんは増えている
膀胱がんの罹患率(人口10万人のうち1年の間に病気になる人の数)は、男女とも増加傾向にあります。1975年と2015年の罹患率を比較すると、40年の間に男性は約5倍に、女性は約4倍に増えています。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
次に、罹患率を年代別に見てみると、男女とも特に60歳代以降で増加していることがわかります。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
患者さんの男女比を調べると、圧倒的に男性の方が多いことがわかります。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」
膀胱がんの症状
血尿には注意が必要
膀胱がんの主な自覚症状は「血尿」です。痛みを伴わないことが多いのですが、排尿時の痛み・下腹部の痛みなどをともなう場合もあります。血が混じった尿が出た場合は泌尿器科を受診するようにしましょう。
そのほかにも頻尿・がまんできない突然の尿意・尿失禁などの症状がでることもあります。
膀胱がんが進行すると、腎不全による症状(手足のむくみ・だるさ・尿が出ない)や骨転移・リンパ節転移の症状(腰痛・足のしびれ)が出る場合もあります。
膀胱がんの原因は?
膀胱がんの原因として明らかになっているのは第1に喫煙です。
40〜69歳の男女10万人以上を対象に1990年から2005年まで行われた追跡調査の結果を元に、喫煙と膀胱がんの関係を調べた研究があります(*1)。その結果によると、男女とも、たばこを吸わない人よりも、喫煙者の方が膀胱がんになる確率が高くなっています。さらに男女で比較すると、女性の方が、喫煙によってより大きな影響を受けるという結果になっています。
(*1)Kurahashi N, Inoue M, Iwasaki M, et al. Coffee, green tea, and caffeine consumption and subsequent risk of bladder cancer in relation to smoking status: a prospective study in Japan. Cancer Sci 2009;100:284–91.
そのほかにも、以下のような化学物質が膀胱がんのリスクを高めることがわかっています。
ゴム・皮革・織物・染色工場で使用されるアニリン色素、ナフチルアミン、ベンチジンなどの染料
抗がん剤のシクロホスファミド、最近発売が禁止された鎮痛剤(頭痛薬)フェナセチンなど
がんが発生する原因として、遺伝子変異(遺伝子が傷ついた状態)の影響が大きいと考えられています。最近の研究によって、膀胱がんの遺伝子変異は他のがんよりも多いとも報告されています。しかし現時点では、原因となる特定の遺伝子は発見されていません。
膀胱がんの予防法は?
現時点で明らかになっているのは禁煙をすること、そして、膀胱がんの原因になることがわかっている特殊な化学物質を使用しないことです。古くから、水のきれいな地域に膀胱がんは少ない、十分に水を飲み、尿をがまんしないことが良いとも言われていますが、明確なエビデンス(科学的な証拠)があるわけではありません。
予防と同時に大切なのは、早期発見です。すでに説明したように、膀胱がんの主な自覚症状は血尿です。血尿がある場合、痛みを伴わない場合の方が、膀胱がんが原因である可能性が高いので注意が必要です。すぐに泌尿器科を受診しましょう。
ただし、排尿時の痛みや下腹部の痛みを伴う血尿が、膀胱がんが原因で起きている場合もあります。また、膀胱がん以外の病気の症状である可能性もあるので、泌尿器科を受診することが大切です。
膀胱がんの「生存率」
前提を理解した上で活用することが大切
膀胱がんの患者さんの生存率として、よく使用されるのは「5年生存率」という指標です。この指標は、手術を受けた後、5年後の時点で生存している方の割合を示しています。
実際の数値は、様々な前提をもとに算出されているので、その前提を理解した上で活用することが大切です。
1) 数値は、過去の治療の成果を反映している
「5年生存率」は、5年以上前に治療を受けた患者さんに対して、その後の状況を追跡することで算出されます。膀胱がんの治療は日々進化していますが、現在の治療成果が反映された「5年生存率」が算出されるのは、最低でも5年先のことになります。
2) 膀胱がんの進行段階を示す「ステージ(病期)」によっても数値は異なる
ステージが小さいほど(初期の膀胱がんであるほど)、「5年生存率」の数値は良くなります。目にした数値が、膀胱がん全体のものか、それとも、ステージ毎に算出されているのかを確認する必要があります。
3) 様々な年齢や健康状態の患者さんのデータから算出されている
「5年生存率」は、一定数の患者さんのデータをもとに算出されます。その中には、様々な年齢や健康状態の方が含まれています。
4) 「実測生存率」と「相対生存率」 2つの種類がある
国立がん研究センターが発表している「5年生存率」には、「実測生存率」と「相対生存率」の2種類があります。
膀胱がんの「5年実測生存率」は、ある年に膀胱がんの治療を受けた患者さんが「5年後に生存しているか」を調べることで計算されています。そのため、膀胱がん以外の理由で亡くなった方の影響を受けることになります。
一方「5年相対生存率」は、膀胱がん以外の理由による死亡の影響を減らすよう、「5年実測生存率」を補正したものです。
このような違いがあるため、膀胱がんの治療成績を知るためには、「5年相対生存率」を参考にした方が、より実態に近い数値を知ることができます。
2010年から2011年の間に膀胱がんの治療を受けた方の「5年相対生存率」は以下のとおりです。
出典:がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2010-2011年5年生存率集計 報告書
監修医師
堀江 重郎 Shigeo Horie
順天堂大学大学院泌尿器外科学 主任教授
順天堂大学附属順天堂医院 泌尿器科長
専門分野:泌尿器がん(前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌)の手術・薬物治療、男性更年期障害、性機能障害、性腺機能低下症、LOH症候群
専門医・認定医:
日本泌尿器科学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本癌治療学会暫定教育医、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。
北村 香介 Kousuke Kitamura
順天堂大学附属練間病院 泌尿器科 准教授
専門分野:泌尿器悪性腫瘍、ロボット手術、腹腔鏡手術、尿路性器感染症
専門医・認定医:
日本泌尿器科学会 認定専門医、日本泌尿器科学会 指導医、日本泌尿器内視鏡学会 腹腔鏡手術認定医、日本がん治療認定医機構 専門医、ロボット外科学会 国内A級認定、ロボット外科学会 国際B級認定、インテュイティブサージカル da Vinci Certificate
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。
家田 健史 Takeshi Ieda
東京臨海病院 泌尿器科
専門分野:膀胱腫瘍・尿路感染症
専門医・認定医:
日本泌尿器学会専門医・指導医日本がん治療学会認定医、Certificate of Da Vinci System Training、ぼうこう又は直腸障害の診断指定医、ICDインフェクションコントロールドクター認定、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、医学博士
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。