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筋層浸潤性膀胱がんの治療法
膀胱温存が可能な「膀胱温存療法」とは?

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筋層浸潤性膀胱がんの標準治療は、膀胱をすべて摘出する「膀胱全摘除術」です。しかし、膀胱を摘出して「尿路変更術」を行うと、排尿の方法が大きく変わってしまいます。

そこで、生活の質を高く維持するために、以下のような条件が揃っている場合、膀胱を残す「膀胱温存療法」が検討される場合があります。ただし、膀胱温存療法には、再発や転移のリスクがあります。その点もよく検討した上で、選択することが大切です。

「膀胱温存療法」のメリットとデメリット

1) メリットは、排尿の方法が変わらないこと

「膀胱温存療法」を行うと、治療後も以前と変わらない形で排尿が可能です。
一方「膀胱全摘除術」を受けると、尿を運ぶ尿路が切断されてしまうので、新たな尿路を作る「尿路変更術」も行う必要があります。尿路変更術には、「ストーマ型」と「自排尿型」の2つのタイプがあります。それぞれ、手術前とは排尿の方法に違いがあります。

ストーマ型
尿を排泄するためのストーマにパウチ袋をつけ、尿をためる。尿が一定量以上たまったらトイレに捨てる

自排尿型
膀胱を切除した後、新膀胱をつくるため、尿道からの排尿が可能。ただし、尿意を感じないため定期的にトイレに行く必要がある。また、新膀胱は、収縮して尿を押し出す力がないため、腹圧をかけて排尿する必要がある。そのため、以前よりも排尿に時間がかかる

2) 膀胱温存療法のデメリットは?

① 膀胱全摘除術と比べると、5年相対生存率などの治療成績が低い

膀胱全摘除術と膀胱温存療法を直接比較した試験はありませんが、それぞれの治療法の結果を解析すると、膀胱全摘除術の方が治療成績がよいという結果がでています。

② 膀胱内で再発した場合、症状のコントロールが難しい

膀胱温存療法は膀胱を残すため、膀胱内で再発するリスクがあります。仮に膀胱内で再発すると血尿や頻尿、排尿痛など非常につらい症状が現れることが予想されます。再発時の症状はコントロールが難しいことが多く、患者さんは非常につらい思いをする可能性があります。

③ 手術の選択肢が限られる

膀胱内で再発した場合、「筋層非浸潤性膀胱がん(ステージⅠ期)」であればTURBTを、「筋層浸潤性膀胱がん(ステージⅡ期・Ⅲ期)であれば膀胱全摘除術を行うことになります。
しかし、「膀胱温存療法」の際に放射線を照射したことで癒着(本来は離れている臓器や組織がくっついてしまうこと)が起こる可能性があるため、膀胱全摘除術をする場合、手術の難易度が高いだけでなく、手術後に合併症が起こるリスクも高くなります。
また、膀胱全摘除術を行う場合には尿路変更術が必要ですが、3種類ある尿路変更術のうち「回腸導管造設術」と「新膀胱造設術」は実施が困難になります。理由は、回腸は放射線が当たると弱くなるからです。「回腸導管造設術」と「新膀胱造設術」では、切断した回腸を利用して新しい尿路を作りますが、それが難しくなってしまうのです。

④ 放射線療法による合併症がある

放射線治療中~終了後1か月程度は、頻尿、排尿時痛、下痢などがあります。
放射線治療が終わってから半年以上経過した後に、直腸出血、小腸出血、慢性的な頻尿や排尿障害、膀胱出血などが起こることがあります。

実際の治療方法

治療効果を最大限にするために、「手術療法(TURBT)」「放射線療法」「薬物療法」の3つを組み合わせて行います。
3つの治療法のうち、手術療法と放射線療法は、がんがある部分を集中的に治療するので、「局所療法」と呼ばれます。一方、薬物療法は、投与した薬剤が全身に広がって効果を発揮するので、「全身療法」と呼ばれています。「局所療法」と「全身療法」を組み合わせることで、治療効果を高めることができるのです。

膀胱温存療法は、一般的には、TURBTを行った後、化学療法と放射線療法を同時期に行う「化学放射線療法」を行います。

1) TURBT

検査として行うTURBTとは別に再度TURBTを行い、できる限りがんがある部分を切除します。TURBTの詳しい情報は「治療方針を決めるために行われる「TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)」とは?」をご覧ください。

2) 放射線療法

がん細胞を死滅させる力がある放射線を膀胱がんがある部分とその周辺に照射します。放射線療法の詳しい情報は「メスを入れずに治療が可能な「放射線療法」」をご覧ください。

3) 化学療法

「細胞障害性抗がん剤」と呼ばれる抗がん剤を使用します。文字通り、がん細胞に障害を与えることでがん細胞を死滅させる、または、増殖を抑える効果があります。
投与した細胞障害性抗がん剤は全身に広がるので、膀胱以外の場所に、ごく小さながんが存在している場合でも、死滅させることができます。
それに加えて細胞障害性抗がん剤には、放射線の効果を高める「増感作用」があります。そのため、放射線療法と化学療法を同時に行う、化学放射線療法が行われる場合があります。

化学療法では、異なるタイプの細胞障害性抗がん剤を同時に使用する「多剤併用療法」が行われます。多剤併用療法を行う理由は、異なるタイプの薬剤を組み合わせることで、治療効果が高まるからです。
膀胱がんの場合、主に使用する薬剤は「ゲムシタビン」と「シスプラチン」です。この2剤を使用する化学療法を「GC療法」と呼びます。
ただし、シスプラチンは腎臓に対する副作用があるため、腎臓機能が低下している患者さんには使用できません。そのため、シスプラチンよりも腎臓に与えるダメージが少ない「カルボプラチン」と「ゲムシタビン」を組み合わせて使用する場合があります。

膀胱温存療法には特徴ある治療法も存在する

一般的な膀胱温存療法は、TURBTの後に、化学療法と放射線療法を同時に行う「化学放射線療法」を実施します。これをベースにして、アレンジを加えた特徴ある治療法も存在します。このような特徴ある治療法は、一般的な膀胱温存療法と同様、治療を受けられる条件があるため、誰でも受けられるわけではありません。

また、筋層浸潤性膀胱がんの標準治療は、あくまでも「膀胱全摘除術」であることを考慮にいれた上で、検討を進めることが重要です。膀胱全摘除術が標準治療になっているのは、さまざまなデータを元に検討を加えた結果、「膀胱温存療法」よりも「膀胱全摘除術」の方が、5年生存率を含めた治療成績が優れていると判断されているからです。
特徴ある治療法には、以下のようなものがあります。

1) 「膀胱の部分切除」を行う(手術療法に特徴あり)

1)TURBTを行って、できる限りがんを切除する。
2)化学放射線療法を行う。
3)化学放射線療法を行うことでがんが消えた場合は、がんが発生していた部分だけを切除(部分切除)すると同時にリンパ節郭清も行う。 化学放射線療法でがんが消えなかった場合は、膀胱全摘除術を行う。

2) 「動脈内注入」で「高濃度の抗がん剤」を使用する(化学療法に特徴あり)

1)TURBTを行って、できる限りがんを切除する。
2)化学放射線療法を行う。化学療法を「動脈内注入」の形で行うこと、また、注入する抗がん剤の濃度が通常の化学療法の場合よりも高いことが特徴。

3) 放射線療法を2回行う、また、陽子線も活用する(放射線療法に特徴あり)

1)TURBTを行って、できる限りがんを切除する。
2)「動脈内注入」による化学療法と放射線療法を行う。
3)再度TURBTを行い、がんが残っていないことが確認できた場合、放射線療法を追加で行う。この際、一般的な放射線療法で使用されるX線を使う場合と、陽子線を使う場合がある。
TURBTを行って、がんが残っていることがわかった場合は、膀胱全摘除術を行う。

●動脈内注入とは?

抗がん剤を投与する際、薬剤を動脈から注入する方法です。
通常の抗がん剤投与は、静脈から行われます。静脈から投与された抗がん剤は、血液の流れにのって全身で効果を発揮します。
一方、動脈から抗がん剤を投与すると、その動脈につながっている臓器に直接届けることができる一方で、そのほかの臓器に流れていく抗がん剤を減らすことができます。膀胱がんで「動脈内注入」を行う場合、膀胱につながっている動脈に抗がん剤を投与することで、膀胱に到達する抗がん剤の量を増やし、治療効果を高めることができます。

●陽子線とは?

粒子線の一種です。一般的な放射線療法ではX線が使用されますが、粒子線が使われる場合もあります。がんの治療に使われる粒子線は、陽子線と重粒子線の2種類です。

粒子線はX線と比べると「正確な照射が可能」という性質があるため、従来のX線で治療が難しい患者さんの治療に活用できるのではないかという意見があります。しかし、膀胱がんの治療に関して、現時点では「X線を使う放射線療法よりも優れた治療効果がある」という研究結果が得られていない状態です。
2020年10月時点で、膀胱がんに対する粒子線治療は保険適用外となっています。そのため治療費は全額負担となります。

4) 治療法の効果を示すデータを参考にするときには「前提条件」の確認が大切

特徴ある膀胱温存療法に関して、治療の効果を示すデータが紹介されている場合があります。そのデータを元にその治療の有効性を判断するには、ほかのデータと比較する必要があります。その際に大切なのは、両者のデータの「前提条件」に違いがないかを確認することです。

たとえばAという治療法は、筋層浸潤性膀胱がんの全ての患者さんが受けられるわけではないことがあります。そのため、治療法Aを受けた患者さんの5年生存率のデータを、例えば国立がん研究センターがん情報サービスで公開されている5年生存率と単純に比較することはできません。その理由の一つは、公開されている5年生存率の対象には、治療法Aを受けられない患者さんのデータも含まれているからです。つまり、「前提条件」が違っているのです。そのほかにも、治療成績のデータを比較する際には、細かく「前提条件」を確認する必要があります。
しかし実際には、細かい条件まで含めて理解することはかなり難しいことです。そのため、担当の医師に相談することをお勧めします。それが難しい場合は、セカンドオピニオンを活用するとよいでしょう。

監修医師

堀江 重郎 Shigeo Horie

順天堂大学大学院泌尿器外科学 主任教授
順天堂大学附属順天堂医院 泌尿器科長
専門分野:泌尿器がん(前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌)の手術・薬物治療、男性更年期障害、性機能障害、性腺機能低下症、LOH症候群

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本癌治療学会暫定教育医、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


北村 香介 Kousuke Kitamura

順天堂大学附属練間病院 泌尿器科 准教授
専門分野:泌尿器悪性腫瘍、ロボット手術、腹腔鏡手術、尿路性器感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会 認定専門医、日本泌尿器科学会 指導医、日本泌尿器内視鏡学会 腹腔鏡手術認定医、日本がん治療認定医機構 専門医、ロボット外科学会 国内A級認定、ロボット外科学会 国際B級認定、インテュイティブサージカル da Vinci Certificate

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


家田 健史 Takeshi Ieda

東京臨海病院 泌尿器科
専門分野:膀胱腫瘍・尿路感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器学会専門医・指導医 日本がん治療学会認定医、Certificate of Da Vinci System Training、ぼうこう又は直腸障害の診断指定医、ICDインフェクションコントロールドクター認定、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、医学博士

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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