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筋層浸潤性膀胱がん(ステージⅡ期とⅢ期) の治療法

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膀胱がんが筋層に浸潤している「筋層浸潤性膀胱がん」の場合、膀胱全体を摘出する「膀胱全摘除術」が標準治療になっています。

膀胱を摘出すると尿をためる場所が失われるだけでなく、尿を体外に排泄する「尿路」も分断されます。そのため新たに尿路を作る「尿路変更術」も同時に行う必要があります。

「筋層浸潤性膀胱がん」では、膀胱全摘除術が標準治療ですが、条件が揃えば膀胱を温存する「膀胱温存療法」が可能な場合があります。ただし膀胱を温存することによるデメリットもあるので、その点を理解した上で選択することが大切です。膀胱温存療法の詳しい情報は「膀胱温存が可能な「膀胱温存療法」とは?」をご覧ください。

膀胱全摘除術の範囲

膀胱全摘除術では、膀胱全体に加えて、周りの組織も一緒に摘出します。その範囲は、男性と女性で異なります。

1) 男性の場合

膀胱に加えて、前立腺・精嚢・遠位尿管を切除します。合わせて、骨盤リンパ節郭清を行います。尿道再発のリスクが高い場合は、「尿道摘除術」も行います。

2) 女性の場合

膀胱に加えて、子宮・膣壁・遠位尿管・尿道を切除します。合わせて、骨盤リンパ節郭清を行います。

がんがある部分だけを切除するのではなく膀胱全体を切除する理由は?

膀胱がんは「多発」する場合が多く、「再発」の確率も高いという特徴があります。「多発」とは、複数の腫瘍がほぼ同時に発生することです。一方「再発」は、がんを切除して取り除いたにもかかわらず、しばらく時間をおいて、再度がんが発生することです。

再発が起こると、もう一度手術を受ける必要があります。それに加えて「筋層浸潤性膀胱がん」の治療後に再発が起こると、最初のがんよりも、病期が進んだ状態で見つかる場合があることがわかっています。

このような性質があるため、膀胱の一部を切除するのではなく、全体を摘出する「膀胱全摘除術」が行われるのです。

体への負担が少ない「低侵襲手術」も行われている

膀胱全摘除術には、「開腹手術」と「低侵襲(ていしんしゅう)手術」の2つの方法があります。低侵襲とは、「患者さんの体に与えるダメージが少ない」という意味です。

尿路変更術には「ストーマ型」と「自排尿型」がある

「尿路変更術」の目的は、膀胱を摘出した後に、新たな尿路を作ることです。
尿路変更術は、「ストーマ型」と「自排尿型」の2つのタイプに分類できます。現在主に行われている尿路変更術は、「回腸導管造設術」「尿管皮膚瘻造設術」「新膀胱造設術」の3種類があります。

3つの尿路変更術の詳細

1) 回腸導管(かいちょうどうかん)造設術

ストーマ型の尿路変更術です。小腸の一部である回腸を筒にして、両側の腎臓から出ている尿管をつなぎます。その上で、筒の片側を体外に出します。体外に露出した部分を「ストーマ」と呼びます。ストーマにはパウチ袋をつなげ、ストーマから流れ出る尿をためます。尿が一定量たまったらトイレに流します。
古くから行われている方法で、多くの施設で実施されています。

2) 尿管皮膚瘻(にょうかんひふろう)造設術

ストーマ型の尿路変更術です。尿管を直接皮膚の外に出し、ストーマを作ります。ストーマにはパウチ袋をつなげ、ストーマから流れ出る尿をためます。尿が一定量たまったらトイレに流します。
手術時間と入院期間が短く、合併症が起こる確率が低いので、高齢者の方や、膀胱がんのほかに病気がある方に行われることが多いという特徴があります。

3) 新膀胱(しんぼうこう)造設術

小腸の一部である回腸や結腸を切断して、縫い合わせることで、尿をためる袋(新膀胱)を作ります。できあがった新膀胱に尿管と尿道をつなぐので、自分の尿道から排尿することができます。

① 新膀胱造設術は、行えない場合がある

「新膀胱造設術」は尿道を残す必要があります。そのため、尿道にがんが再発する危険性が高いと判断される患者さんに対しては行うことができません。

② 新膀胱造設後の排尿は、以前と比べると違いがある

新膀胱は、もともとの膀胱が持っていた機能をすべて備えているわけではありません。そのため、以前と同じようには排尿ができない部分が生じます。

●尿意を感じない

新膀胱には神経がないため、尿意を感じません。そのため、定期的(2~3時間おき)にトイレに行き、排尿する必要があります。

●「排尿の方法」と「排尿にかかる時間」が変わる

膀胱には自ら収縮する機能があるので、尿を強く押し出すことで排尿がスムーズに行うことができます。一方、「新膀胱」には、自ら収縮する機能がありません。そのため排尿するためには、排便時にいきむような感じで腹圧をかける必要があります。以前と比べると尿を押し出す力が弱くなるため、排尿が終わるまでには5分程度の時間がかかります。

3つの「尿路変更術」
それぞれの特徴の比較

筋層浸潤性膀胱がんでは、膀胱全摘除術が標準治療になっています。膀胱全摘除術を行うと、必ず尿路変更術が必要になります。3種類の尿路変更術を選択するためにも、それぞれの特徴を確認しておきましょう。

尿路変更術の選択には自身の「生活スタイル」や「価値観」の確認も大切

尿路変更術の選択は、その方の生活スタイルによっても違ってきます。
例えば、出張が多い仕事をしている方の場合、外出先でトイレを探し、パウチ袋にたまった尿を流すことは負担が多いと判断され、「新膀胱建造術」を選択されることがあります。 一方、仕事中はトイレに行く時間をとることが難しい仕事をされている方は、ストーマ型の「回腸導管造設術」を選択される場合があります。

このように、その方がどのような仕事をしているかによって尿路変更術の選択は違ってきます。ほかにも、この後どのような人生を送りたいのか、どのようなことを大切にして生活をされたいかによって、その方にふさわしい尿路変更術は違ってきます。

医師は、患者さんの生活スタイルや家族構成などを確認して、そのことも考慮に入れて尿路変更術の提案をします。しかし、医師は患者さんのことをすべて理解しているわけではありません。後悔しない治療法選択のためには、ご自身の生活スタイルや、何を大切にしたいかを改めて確認していただき、それを担当の医師と共有していただくことをお勧めします。

患者さんの考えや思いを聞かせていただくことで、医師は、その患者さんにとって有用なアドバイスが可能になります。そして、医師のアドバイスを参考に、最終的にはご自身で決断する。このようなプロセスを踏むことで、後悔しない治療法選択が可能になるはずです。

手術の合併症・後遺症

腸閉塞や感染症による発熱、腎盂腎炎、創感染などがあります。これらの症状は、ほとんどの場合、抗生剤や処置により改善します。ただし、膀胱全摘は侵襲の大きな手術であるため、命に関わる合併症が起こる場合もあります。

術後の後遺症としては、消化管の動きが悪くなる、膀胱機能障害、性機能障害、腎機能障害などが起きる場合があります。

手術前に行う薬物療法で治療効果がアップする

膀胱全摘除術を行う前に、薬物療法の一つである「化学療法」を行うことを「術前補助化学療法」と呼びます。術前補助化学療法によって治療の効果が高まり、生存期間が伸びることがわかっています。

化学療法は手術後に行われることもあり、これを「術後補助化学療法」と呼びます。術後補助化学療法に関しては、実施することで生存期間が延びるという明らかな結果は得られていません。

術前補助化学療法と術後補助化学療法のどちらも、使用する薬剤、投与方法、副作用に違いはありません。

1) 使用する薬剤

細胞障害性抗がん剤の「ゲムシタビン」と「シスプラチン」を合わせた「GC療法」を行います。「ゲムシタビン」と「シスプラチン」は、タイプの異なる細胞障害性抗がん剤です。このように異なるタイプの抗がん剤を使うことで、治療効果が高まることがわかっています。

2) 治療方法

治療は、基本的には入院して行います。「ゲムシタビン」と「シスプラチン」のどちらも点滴で投与します。
投与のスケジュールは4週間を1コースとして、2コース程度行います。1コースの間にゲムシタビンは3回(1日目、8日目、15日目)、シスプラチンは1回(2日目)に投与します。その後16日目から28日目までは投薬を行いません。

3) 副作用

食欲不振、吐き気・嘔吐、脱毛、発疹、貧血、白血球減少、血小板減少、間質性肺炎など

4) 化学療法で起こる吐き気は、コントロールできる!

化学療法に関して、副作用が強いというイメージをもつ方もいるかもしれません。しかし最近では、吐き気や嘔吐に関しては、「制吐剤(せいとざい)」と呼ばれる吐き気止めの薬を使うことで、かなり軽減されました。

吐き気には、抗がん剤点滴後24時間以内に発生する「急性」、24時間以降に発生する「遅延性」、以前に嘔吐した経験が原因となって心理的に生じる「予期性」などがあります。こうした3つのタイプの吐き気に対応するため3種類の薬が用意されています。
制吐剤は予め予防的に投与されますが、それでも吐き気が強い場合は、頓用のお薬(症状が強い時に服用する薬)を使用することや、次の化学療法から予防的に投与される薬を追加・変更することが可能です。副作用が強い場合には医師や看護師、薬剤師などに伝えるようにしましょう。

監修医師

堀江 重郎 Shigeo Horie

順天堂大学大学院泌尿器外科学 主任教授
順天堂大学附属順天堂医院 泌尿器科長
専門分野:泌尿器がん(前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌)の手術・薬物治療、男性更年期障害、性機能障害、性腺機能低下症、LOH症候群

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本癌治療学会暫定教育医、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


北村 香介 Kousuke Kitamura

順天堂大学附属練間病院 泌尿器科 准教授
専門分野:泌尿器悪性腫瘍、ロボット手術、腹腔鏡手術、尿路性器感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会 認定専門医、日本泌尿器科学会 指導医、日本泌尿器内視鏡学会 腹腔鏡手術認定医、日本がん治療認定医機構 専門医、ロボット外科学会 国内A級認定、ロボット外科学会 国際B級認定、インテュイティブサージカル da Vinci Certificate

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


家田 健史 Takeshi Ieda

東京臨海病院 泌尿器科
専門分野:膀胱腫瘍・尿路感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器学会専門医・指導医 日本がん治療学会認定医、Certificate of Da Vinci System Training、ぼうこう又は直腸障害の診断指定医、ICDインフェクションコントロールドクター認定、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、医学博士

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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