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膀胱がんの薬物療法は「全身療法」だけでなく「局所療法」としても行われる

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薬物療法で使用される「抗がん剤」は、血液の流れに乗って運ばれ、全身で効果を発揮します。そのため「全身療法」と呼ばれます。

膀胱がんの薬物療法は「全身療法」として行われるだけでなく、膀胱内にあるがんを治療する「局所療法」としても行われます。膀胱がんの「局所療法」として行われる薬物療法は「膀胱内注入療法」と呼ばれています。これは、薬剤を膀胱内に注入することで膀胱内にあるがんだけを叩く治療です。

膀胱がんの「薬物療法」
使用される抗がん剤とは?

膀胱がんの薬物療法は、「化学療法」と「免疫療法」の2つのカテゴリーに分けられます。
最初のカテゴリーである「化学療法」では、「細胞障害性抗がん剤」が使われます。細胞障害性抗がん剤は、全身療法と局所療法のどちらの目的でも使用されます。

2番目のカテゴリーである「免疫療法」で使われる薬剤は、「BCG(ウシ型弱毒結核菌)」と「免疫チェックポイント阻害薬」です。
BCGは、結核を予防するワクチンとしても使用されている薬剤で、局所療法として使用されます。一方、免疫チェックポイント阻害薬は、全身療法として使用されます。

●「細胞障害性抗がん剤」という名前を使う理由

「細胞障害性抗がん剤」は、一般的には「抗がん剤」と呼ばれることがあります。しかし、実際には「抗がん剤」という言葉は“抗がん作用がある薬剤”という意味なので、「細胞障害性抗がん剤」だけでなく「免疫チェックポイント阻害薬」も「抗がん剤」の仲間ということになります。そこで、このコンテンツでは混乱を避けるために、化学療法で使用される薬剤を「細胞障害性抗がん剤」と呼びたいと思います。

局所療法として行われる「膀胱内注入療法」
筋層非浸潤性膀胱がん(ステージ0期・Ⅰ期)の場合

筋層に浸潤がない「筋層非浸潤性膀胱がん」では、膀胱内に抗がん剤を注入する「膀胱内注入療法」が行われます。注入した抗がん剤は、膀胱内部のみで効果を発揮する「局所療法」として作用します。

筋層非浸潤性膀胱がんは、再発のリスクが高いという特徴がありますが、「膀胱内注入療法」で膀胱内のがんを叩くことで、そのリスクを下げることができます。
使用される薬剤のタイプは、細胞障害性抗がん剤とBCGです。

1) 「膀胱内注入療法」の手順

膀胱内注入療法は、以下のような流れで行われます。

1.尿道からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入。カテーテルの先端を膀胱の内部まで到達させる。
2.カテーテルの先端に注射器を接続。薬剤を注入する。
3.薬剤を一定時間、膀胱内にとどめる。
4.時間が終わったところで、トイレで排尿して薬剤を排出する。

2) 「膀胱内注入療法」で使用される2つの薬剤の特徴

膀胱内注入療法で使用される、「細胞障害性抗がん剤」と「BCG」の特徴は以下の通りです。2つの薬剤のどちらを使うかは、患者さんの再発リスクによって判断します。実際にどのように再発リスクを判定するかは「「再発リスク」はどのように判定される?」をご覧ください。

「全身療法」として行われる化学療法
筋層浸潤性膀胱がん(ステージⅡ期・Ⅲ期)の場合

筋層浸潤性膀胱がんでは、「膀胱全摘除術」が標準治療になっています。この膀胱全摘除術の前後に化学療法を行います。膀胱全摘除術の前に化学療法を行う場合は「術前補助化学療法」、手術が終わった後に行う場合は「術後化学療法」と呼びます。
使用される薬剤については、「実際に使用される薬剤」をご覧ください。

1) 術前・術後に「化学療法」を行うのはなぜ?

理由は、手術前に行われる画像検査や、手術中に医師が肉眼で発見できるがんは、大きさが数mm以上のものだけだからです。そのため、手術前に立てたプラン通りに無事手術が終わり、手術中にも「がんの転移がない」と確認された場合でも、微少ながんが残っている可能性は否定できません。そこで、体内に残っている可能性がある微少ながんを叩くために化学療法を行うのです。

2) 「術前」と「術後」どちらが効果的?

術前に「GC療法」と呼ばれる化学療法を行った人と、術前・術後に化学療法を行わなかった人を比較すると、術前に化学療法を行った人の方が、「生存期間が長い」という試験結果があります。

一方、術後に「GC療法」を行った人と、術前・術後に化学療法を行わなかった人を比較した試験の結果によると、術前化学療法のように明らかな優位性が確認できていません。現時点では、術前の「GC療法」と術後の「GC療法」を比べた場合、術前の「GC療法」の方がより効果を期待できると言えます。

ただし、術前に「GC療法」を行うと、その分だけ手術を行う時期が遅くなります。手術の時期が遅くなった分、がんが進行する可能性もあるため、その方の膀胱がんの状態と合わせながら、術前、術後のどちらに化学療法を行うかが検討されます。

「全身療法」として行われる化学療法
転移性膀胱がんの場合(ステージⅣ期)

転移性膀胱がんの治療の柱は、化学療法です。化学療法を行ってがん細胞が増えるのを抑えることで、QOL(生活の質)の維持を目指します。
化学療法を行うことでがんが縮小した場合は、膀胱全摘除術を行うことがあります。

「全身療法」として行われる化学療法
その進め方とは?

1) 使用される薬剤

細胞障害性抗がん剤の「ゲムシタビン」と「シスプラチン」を合わせた「GC療法」を行います。「ゲムシタビン」と「シスプラチン」は、タイプの異なる細胞障害性抗がん剤です。このように異なるタイプの抗がん剤を使うことで、治療効果が高まることがわかっています。

ただし、シスプラチンは腎臓に対する副作用があるため、腎臓機能が低下している患者さんには使用できません。そのため、シスプラチンよりも腎臓に与えるダメージが少ない「カルボプラチン」と「ゲムシタビン」を組み合わせて使用する場合があります。

2) 投与方法

「ゲムシタビン」と「シスプラチン」のどちらも点滴で投与します。基本的に入院して行います。
投与のスケジュールは4週間を1コースとして、複数コース実施します。1コースの間にゲムシタビンは3回(1日目、8日目、15日目)、シスプラチンは1回(2日目)に投与します。その後16日目から28日目までは投薬を行いません。

3) 副作用

食欲不振、吐き気・嘔吐、脱毛、発疹、貧血、白血球減少、血小板減少、間質性肺炎など

4) 化学療法で起こる吐き気は、コントロールできる!

化学療法に関して、「副作用が強いのでは?」と不安に思っている方もいるかもしれません。しかし最近では、吐き気や嘔吐に関しては、「制吐剤(せいとざい)」と呼ばれる吐き気止めの薬を使うことで、かなり軽減されました。

吐き気には、抗がん剤点滴後24時間以内に発生する「急性」、24時間以降に発生する「遅延性」、以前に嘔吐した経験が原因となって心理的に生じる「予期性」などがあります。この3つのタイプの吐き気に対応するため、3種類の薬が用意されています。

制吐剤は、化学療法を行う前に予防的に投与されますが、それでも吐き気が強い場合は、頓用(とんよう:症状が強い時に服用する)の薬を使用することができます。また、次回の化学療法から予防的に投与される薬を追加・変更することが可能です。副作用が強い場合には医師や看護師、薬剤師などに伝えるようにしましょう。

監修医師

堀江 重郎 Shigeo Horie

順天堂大学大学院泌尿器外科学 主任教授
順天堂大学附属順天堂医院 泌尿器科長
専門分野:泌尿器がん(前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌)の手術・薬物治療、男性更年期障害、性機能障害、性腺機能低下症、LOH症候群

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会指導医、日本腎臓学会指導医、日本癌治療学会暫定教育医、日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


北村 香介 Kousuke Kitamura

順天堂大学附属練間病院 泌尿器科 准教授
専門分野:泌尿器悪性腫瘍、ロボット手術、腹腔鏡手術、尿路性器感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会 認定専門医、日本泌尿器科学会 指導医、日本泌尿器内視鏡学会 腹腔鏡手術認定医、日本がん治療認定医機構 専門医、ロボット外科学会 国内A級認定、ロボット外科学会 国際B級認定、インテュイティブサージカル da Vinci Certificate

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


家田 健史 Takeshi Ieda

東京臨海病院 泌尿器科
専門分野:膀胱腫瘍・尿路感染症

専門医・認定医:
日本泌尿器学会専門医・指導医 日本がん治療学会認定医、Certificate of Da Vinci System Training、ぼうこう又は直腸障害の診断指定医、ICDインフェクションコントロールドクター認定、内分泌代謝科(泌尿器科)専門医、医学博士

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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