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「前がん病変」は、がんになる手前の状態にあるという意味です。 まだ「がん」になっていない状態なので、「前がん病変」の段階で治療を行えば、ほとんどの場合、完治します。 そのため、「がん」になる手前の「前がん病変」の段階で発見して、適切な治療を行うことがとても大切です。
タイプ1の子宮体がんには「前がん病変」と呼ばれる前段階がある
子宮体がんは、発生原因の違いから「タイプ1」と「タイプ2」の2つに分類されます。 「タイプ1」は、女性ホルモンのエストロゲンの影響を受けて発生します。 重要な点は、『いきなり「タイプ1」の子宮体がんになるわけではない』ということです。 「タイプ1」の子宮体がんになる前には、「前がん病変」と呼ばれる段階があると考えられています。
正常な状態 → 前がん病変 → 「タイプ1」の子宮体がん
「前がん病変」は、子宮の内側をおおっている子宮内膜から発生します。 子宮内膜は、妊娠が成立したときには、受精卵を育むベッドのような役割を果たします。 一方、妊娠が成立しなければ子宮内膜は、はがれ落ちます。これが月経です。 月経が終わった後には、子宮内膜は増殖を始め、再び、受精卵を育む準備をします。
このように、正常な子宮内膜は「増殖」と「脱落(はがれおちること)」を繰り返しています。 ところが、女性ホルモンの「エストロゲン」が長期的に多量に分泌された状態が続くと、子宮内膜が刺激を受け続け、通常より厚くなってしまうことがあります。 これを「子宮内膜増殖症」と呼びます。「子宮内膜増殖症」は内膜が増殖しているだけで、「前がん病変」ではありません。
ただし、「子宮内膜増殖症」の患者さんの子宮内膜を詳しく調べると、正常な細胞とは形状が異なる細胞(異型細胞)が見つかることがあります。 実際に「異型細胞」が見つかった場合、「子宮内膜異型増殖症」と診断されます。この「子宮内膜異型増殖症」は「前がん病変」と呼ばれる状態です。
「前がん病変」は、どの程度「がん化」するの?
「前がん病変」である「子宮内膜異型増殖症」のうち約37%が進行し、がん化すると言われています。 注意が必要なのは、「子宮内膜増殖症」と診断された場合でもがん化する可能性がゼロではないことです。
出典:R J Kurman, P F Kaminski, H J Norris. The behavior of endometrial hyperplasia. A long‐term study of “untreated” hyperplasia in 170 patients. Cancer. 1985 Jul 15;56(2):403-12.
Dunton C J, et al. Use of computerized morphometric analyses of endometrial hyperplasias in the prediction of coexistent cancer. Am J Obstet Gynecol 1996 ; 174 : 1518-21
子宮内膜増殖症・子宮内膜異型増殖症の症状
子宮体がんと同様、不正出血を伴うことが多いという特徴があります。月経ではないのに出血がある場合や、閉経したのに出血がある場合は、必ず医師の診察を受けるようにしましょう。
「前がん病変(子宮内膜異型増殖症)」の治療
手術を行って、子宮を摘出します。 子宮を摘出する手術は大きく分けて3種類ありますが、そのうち一番切除する範囲が狭い「単純子宮全摘出術」が行われます (詳しくは「 手術療法には、3つの方法がある 」をご覧ください)。 「子宮内膜異型増殖症」の段階で手術療法を行えば、ほとんどの場合完治します。 なお、妊娠を強く希望する若い患者さんの場合、子宮の摘出をせず、別の治療に切り替える場合があります。 詳しくは「 ごく初期の子宮体がんでは「妊娠する力」を残せる可能性がある 」をご覧ください。
初期の子宮体がんの主な自覚症状は「不正出血」です。月経ではないのに出血がある場合や、閉経したのに出血がある場合は注意が必要です。 また、不正出血がない場合でも、子宮口(子宮の出入り口)が閉じている場合は、血液が子宮の内部にたまり、下腹部痛が出ることもあります。
Q. がん化する前段階の「前がん病変」なのに、子宮を取る手術をするのはなぜ?
A. 「子宮内膜異型増殖症」は、子宮体がんになる前段階で、まだ「がん化」していない状態です。 それにも関わらず子宮を摘出するのは、そのままの状態だと子宮体がんになるリスクがあるからです。 すでに紹介したように「子宮内膜異型増殖症」の場合、子宮体がんになる割合はでは37%とされています。
それに加えて「子宮内膜異型増殖症」は、子宮体がんが隠れている場合が多いという理由もあります。 「子宮内膜異型増殖症」で子宮を摘出した場合、摘出された子宮は細かく調べられます。 すると、「子宮内膜異型増殖症」と診断されて子宮を摘出した患者さんのうち、17~50%程度で「子宮体がん」が見つかることがわかっています。
このように「がん化するリスク」と「がんが隠れているリスク」があるため、「子宮内膜異型増殖症」と診断された場合は、基本的には子宮を摘出する「単純子宮全摘出術」を行います。
出典:Dunton C J, et al. Use of computerized morphometric analyses of endometrial hyperplasias in the prediction of coexistent cancer. Am J Obstet Gynecol 1996 ; 174 : 1518-21