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子宮体がんの3つの治療法
その3 全身に対して効果がある「薬物療法」
「薬物療法」は、子宮体がんの治療の柱である「手術療法」と組み合わせて行うことで、治療効果をより高めることを目指します。
2つの治療法を組み合わせるのは、それぞれの治療の性質が異なるからです。
・薬物療法:全身を対象にした治療で「全身療法」とも呼ばれる ・手術療法:がんがある部分を治療する方法で「局所療法」とも呼ばれる
「全身療法」と「局所療法」、タイプが異なる治療を組み合わせることで、子宮体がんの治療効果を高めることを目指すのです。
そのほかにも、手術が難しい場合、手術前に「薬物療法」を行うことで、がんを縮小させてから手術を行うことがあります。また、治療が終わった後に再発した場合や、子宮体がんが進行して手術療法や放射線療法を行うことが難しい場合に、「薬物療法」が行われることがあります。
薬物療法は実施の時期によって目的が異なる
薬物療法には、手術前に行われる「術前薬物療法」、手術後に行われる「術後薬物療法」、再発した時に行われる「再発時の薬物療法」があります。
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- 術前薬物療法
ステージが進行した患者さんでは、がんが広範囲に広がっているため手術を行えない場合があります。このようなときに、先に薬物療法を行い、がんが小さくなったところで、手術療法を行う場合があります。
- 術前薬物療法
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- 術後薬物療法
手術療法の後、再発リスクを検討した結果、「中リスク群」または「高リスク群」と判定された場合、薬物療法を行います。薬物療法を行うことで、再発リスクを低下させることを目指します。
- 術後薬物療法
- 再発時の薬物療法
手術後や術後薬物療法などで一度治療を終了してから再発してしまった場合は、全身にがんが広がっている可能性が高く、薬物療法が選択されることが多くなります。根治を目指すこともありますが、再発したがんと薬物療法による副作用をうまく調整しながら行います。
「手術療法」の後に「薬物療法」をするのはなぜ?
「手術療法」では、がんがある部分を確実に切除することを目指して行われます。そのために2つのことが行われています。
・手術前:画像診断を行い、がんの位置や大きさを想定する
・手術中:医師が肉眼で細かく確認して、病変がある部分を切除する
それにも関わらず「薬物療法」が必要なのは、なぜでしょうか?
理由は、画像検査や肉眼検査で発見できるがんは、大きさが数ミリ以上のものだけだからです。そのため、手術療法で「画像診断的にも肉眼的にも完全に切除できた」としても、画像診断や肉眼では見つけることができないごく小さい「がん細胞のかたまり」が、残っている可能性を否定できません。その部分が数ヶ月~数年の時間をかけて成長して、がんが再発する可能性があります。
そこで、手術後にがんが再発するリスクを判定して、「中リスク群」または「高リスク群」だとわかった場合には薬物療法を行います。
薬物療法は、全身に対して効果がある「全身療法」です。そのため、仮にごく小さながんが存在している場合でも、そのがんを死滅させることができるのです。
このように、手術療法の後に薬物療法を行うことで、治療効果を高めることが期待できるので、手術療法の後に行う薬物療法は「術後補助療法」と呼ばれています。
実際に、再発リスクがどのように判定されるかは「 手術療法の後に行われる「再発リスクの判定」とは? 」をご覧ください。
手術療法の後に行われる「薬物療法」
どのような薬が使われるの?
手術療法の後に行われる「薬物療法」では、「細胞障害性抗がん薬」が使用されます。この「細胞障害性抗がん薬」を使用する治療は「化学療法」とも呼ばれます。
「細胞障害性抗がん薬」は、文字通りがん細胞に障害を与えることでがん細胞を死滅させ、増殖を抑える作用があります。
実際の治療では、通常2種類の「細胞障害性抗がん薬」が併用されます。理由は、2剤を併用することで、1剤だけの場合よりも治療効果が高いことが実証されているからです。実際に使用されるのは、次の組み合わせです。
- AP療法:「アドリアマイシン(ドキソルビシン)」と「シスプラチン」
- DP療法:「ドセタキセル」と「シスプラチン」
- TC療法:「パクリタキセル」と「カルボプラチン」
「シスプラチン」と「カルボプラチン」は、どちらも「プラチナ製剤」と呼ばれるカテゴリーの薬です。一方「アドリアマイシン」「ドセタキセル」「パクリタキセル」は、「プラチナ製剤」とは別のカテゴリーの薬です。このようにカテゴリーの異なる薬を組み合わせて使用することで、がん細胞に、より大きなダメージを与えることができます。
なお、「アドリアマイシン」は「ドキソルビシン」と呼ばれることもあります。
1) 「AP療法」「DP療法」「TC療法」の副作用
頻度が高いのは手足のしびれ、関節痛などです。そのほかに白血球減少、貧血、血小板減少、腎障害、吐き気、嘔吐、食欲不振、脱毛、全身のだるさ、味覚障害などが生じることがあります。特にTC療法では手足のしびれが多く、AP療法は心臓への負担がかかるので心不全に注意が必要になります。
なお、パクリタキセルにはアルコールが含まれているので、点滴中に体が熱くなる感じがあります。
2) 化学療法で起こる吐き気は、コントロールできる!
映画やドラマの影響などで、化学療法に対してマイナスのイメージをもつ方もいるかもしれません。しかし最近では、「制吐剤(せいとざい)」と呼ばれる、吐き気止めの薬を使うことで、吐き気や嘔吐はかなり軽減できるようになりました。そのため、以前は入院が必要だった治療についても、外来で治療できるケースも増えています。
3) 制吐剤には3つの種類がある
吐き気には、抗がん剤点滴後24時間以内に発生する「急性」、24時間以降に発生する「遅延性」、以前に嘔吐した経験が原因となって心理的に生じる「予期性」などがあります。これらの3つのタイプの吐き気に対応するため、3種類の薬があります。
制吐剤は予め予防的に投与されますが、それでも吐き気が強い場合は、頓用のお薬(症状が強い時に服用する薬)を使用したり、次の化学療法から予防的に投与される薬を追加・変更したりすることが可能です。副作用が強い場合には、主治医にご相談ください
再発時の「薬物療法」で使用される「免疫チェックポイント阻害薬」とは?
私たちの体には、体内に侵入した異物や、体内で発生したがん細胞を排除する「免疫」という働きがあります。この働きを利用してがん細胞を攻撃するのが「免疫療法」で、「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる薬が使用されます。
免疫チェックポイント阻害薬の働きに関する情報は「 再発した「子宮体がん」の治療法 」の「免疫チェックポイント阻害薬には、どのような働きがあるの?」をご覧ください。
1) 対象となる患者さん
すでに化学療法を行った患者さんのうち、終了後に効果が見られなかった方、または再発した方です。それに加えて、「マイクロサテライト不安定性」を調べる検査で、陽性と診断された方が対象になります。
マイクロサテライト不安定性」に関する情報は「 再発した「子宮体がん」の治療法 」の「再発した子宮体がんの薬物療法 新タイプの抗がん剤が使用可能に」の1)~4)をご覧ください。
2) 「免疫チェックポイント阻害薬」には重大な副作用が起こる場合がある
「免疫チェックポイント阻害薬」には、「細胞障害性抗がん薬」とは異なる副作用があります。中には副作用には、重大なものもあるので、使用にあたっては十分な注意が必要です。
免疫チェックポイント阻害薬の副作用に関する情報は「 再発した「子宮体がん」の治療法 」の「免疫チェックポイント阻害薬には 細胞障害性抗がん薬とは異なる副作用がある」をご覧ください。