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治療選択の3つのポイント

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子宮体がんの治療方針を決めるために必要な要素は3つあります。

  1. ステージ(病期):子宮体がんの大きさや広がりの度合い
  2. 組織型:子宮体がんの種類
  3. 患者さんの状態:年齢、全身の状態など

納得した上で子宮体がんの治療に取り組むには、3つの要素によってどのように治療方針が決められるのかを理解しておくことが大切です。

がんの進行段階を示す「ステージ」

ステージは日本語では「病期」または「進行期」と呼ばれ、がんの進行段階を表しています。 がんは進行とともに広がっていく性質があるので、がんの広がりの度合いによってステージ(病期・進行期)が定義されています。
ステージはⅠ期~Ⅳ期に分類され、数字が大きいほど、がんが進行していることを示しています。

 

1) 正確な「ステージ」は治療前ではなく、手術後に決定される

子宮体がんの初回の治療法を選択する際には、「組織診検査」や「画像診断」などの結果をもとに判定されたステージが大きな役割を果たします。
子宮体がんの初回治療では、ほとんどの場合「手術療法」が選択されます。 実際に手術を行った後には、手術で切除した標本を詳しく顕微鏡で検査し、がんがどこまで広がっているのかを病理学的に細かく診断します。 その結果、治療前に判定したステージとは違う結果が出る場合があります。 このようなことが起こるのは、子宮体がんは子宮の奥に発生するため、「治療前に正確なステージを決めることが難しい」という特徴や、顕微鏡で観察して初めてがんとわかる臓器(卵巣転移やリンパ節転移等)があるからです。

 

基本的には手術で摘出した検体を病理学的に診断して「手術進行期分類」が確定しますが、全身状態が悪い患者さんや、 がんが進行していて手術ができない患者さんには、生検した組織診断や画像診断により「臨床進行期分類」を決定します。

  • 生検した組織診断や画像診断で判定したステージ →「臨床進行期分類」
  • 手術で摘出した臓器の病理学的根拠に基づいたステージ →「手術進行期分類」

 

2) 各ステージは、どのような基準で分類されているの?

子宮体がんの各ステージは、子宮体がんが、子宮から徐々に周囲の臓器へ広がる特徴をとらえて、以下の基準によって分類されています。

 

Ⅰ期:がんが子宮内だけに存在している

Ⅱ期:がんが子宮頸部に広がっているが、子宮をこえていない

Ⅲ期:がんが子宮内にとどまらず、以下の部分にも広がっている

Ⅳ期:がんが骨盤を越えているか、膀胱や腸粘膜に広がっている。または、離れた臓器に転移(遠隔転移)している

 

各ステージの比率を見てみると一番多いのはⅠ期で、73%を占めています。子宮体がんでは、初期の段階で発見される患者さんの比率が高いことがわかります。

出典:婦人科腫瘍委員会報告「2018年患者年報」

3) 各ステージは「亜分類」によって、さらに細かく分類されている

各ステージは、「亜分類」によって、さらに細かく分類されています。 このように細かく分類するのは、その患者さんの状態にあった、「より適切な治療」を可能にするためです。 子宮体がんではⅠ期、Ⅲ期、Ⅳ期に亜分類があります。このうち、Ⅲ期の亜分類「ⅢC期」は、さらに細かい「亜分類」によって分けられています。

4) 手術の後に判定されたステージで手術後の治療方針が決まる

手術後に診断されたステージ「手術進行期分類」によって、手術後の補助治療(術後補助療法)の方針が決まります。 「術後補助療法」の目的は、子宮体がんの再発リスクを下げることです。 子宮体がんは、再発すると治療が難しいという性質があります。 そのため、再発のリスクを下げることは重要です。そのために行われる「術後化学療法」の方針を左右する「手術進行期分類」は、子宮体がんの治療において、非常に重要な役割を果たしているのです。

がんの”顔つき”を示す「組織型」

組織型は、ステージとともに、治療方針を決める際に重要な役割を果たします。 理由は、組織型が異なると、たとえ同じステージでも進行・再発の早さや治療に対する効果が違うことがあるからです。 組織型は、病理検査によって決まります。 病理検査では、「組織診検査」で採取された組織を顕微鏡で観察、細胞や組織の形状の特徴を確認することで、いくつかの種類に分類します。 これが「組織型」です。わかりやすく説明すると、そのがんの“顔つき”と言えます。


1) 子宮体がん4つの「組織型」とは?

子宮体がんは、大きく4つの組織型に分類されます。 「類内膜(るいないまく)がん」「漿液性(しょうえきせい)がん」「明細胞(めいさいぼう)がん」「粘液性(ねんえきせい)がん」の4種類です。
4種類のうち最も数が多いのは「類内膜がん」で、子宮体がん全体に占める割合は80%を越えます。

出典:婦人科腫瘍委員会報告「2018年患者年報」

2) 類内膜がんの「分化度」によって「悪性度」がわかる

子宮体がんの「組織型」の中で最も数が多い「類内膜がん」は、がん細胞の「分化度」によって「高分化型」「中分化型」「低分化型」の3つに分類されています。

3つの分類がされている理由は、「分化度」によって異型度(悪性度)がわかるからです。 具体的には、分化度が高いほど異型度は低く、逆に、分化度が低いほど異型度は高くなります。 そして異型度が高いほど、がんは広がりやすく、かつ、広がるスピードも早くなります。 そのため、分化度から明らかになった「異型度」を参考にして、治療方針が決められているのです。

なお、異型度は「グレード」とも呼ばれ、異型度が低いとグレード1(G1)、中間はグレード2(G2)、異型度が高いとグレード3(G3)と呼ばれます。

 

「分化度」って何?

私たちの体内では、未熟な細胞が分裂しながら成熟した細胞に成長していきます。 このプロセスが「分化」で、「分化」の度合いが「分化度」と言われます。 「分化度」は3つの段階に分類されていて、未熟な段階が「低分化」、そこから成熟度が高くなるにつれて「中分化」「高分化」と呼ばれています。

高分化な細胞(成熟度が高い細胞)が「がん化」した場合は「高分化型」と呼ばれます。 「高分化型」のがん細胞の性質は正常細胞に近いため、「高分化型」は一般的に悪性度が低く、予後(治癒の見込み)も良い傾向にあります。
一方、低分化な細胞(成熟度が低い細胞)が「がん化」した場合は「低分化型」と呼ばれ、増殖や転移が早く、予後もよくありません。 「中分化型」は、「高分化型」と「低分化型」の中間的な性質をもっています。


3) それぞれの「組織型」の特徴は?

子宮体がんには「組織型」のほかにも、「タイプ1」と「タイプ2」という分類があります。この分類を使うと、組織型の特徴を理解しやすいでしょう。

「タイプ1」と「タイプ2」の違いは、がんの発生のメカニズムが異なることです。 「タイプ1」は、女性ホルモン「エストロゲン」の影響によって発生します。一方「タイプ2」は、エストロゲンとは無関係に発生します。

「タイプ1」「タイプ2」という分類は、がん細胞の形態で分類される「組織型」とも深い関係があります。 「タイプ1」の子宮体がんの組織型は「類内膜がん」が多く、「タイプ2」は「漿液性がん」「明細胞がん」が多くなっています。

このような関連性があるので、「タイプ1」と「タイプ2」の特徴を知ることで、「組織型」の違いによって、その性質にはどのような違いがあるのかを理解できます。

4) 「組織型」や「分化度」を確認することでそれぞれの患者さんにとって最適な治療が可能に

「組織型」や「分化度」は、がん細胞の形態の違いによって分類されています。 いわば、がんの“顔つき”から分類を行っているわけですが、これには、どのような意味があるのでしょう?

ポイントは、「がんは遺伝子の変異によって起こる病気」だということです。そして、がんの原因になる遺伝子の変異には種類があります。 そのため、がん細胞の形態には違いが生まれ、“顔つき”が違ってくるのです。

つまり“顔つき”で分類することは、遺伝子変異を大まかに分類していることになります。 その結果に基づいて治療法を検討することで、それぞれの患者さんのがんの性質に合わせた治療に近づくことができるのです。

手術後の治療方針を左右する「再発リスク」は「組織型」と「がんの広がり方」で決まる

子宮体がんは、再発が起こると治療が難しくなるため、手術療法を行った後に再発リスクが高いと判定された場合、再発リスクを下げるために、手術の後に「術後補助療法」を追加します。
再発リスクの判定は、「低リスク群」「中リスク群」「高リスク群」の3段階です。それぞれの段階で、次のような対応が行われます。

  • 低リスク群:経過観察
  • 中リスク群:経過観察又は術後補助療法*を行う。
  • 高リスク群:術後補助療法*を行う。

*術後補助療法として行われるのは「薬物療法(化学療法)」と「放射線療法」。どちらを行うかは、患者さんの状態を考慮して判断される。


1) 「再発リスク」はどのように判定されるの?

判定は、子宮体がんの「組織型」と「広がり方」によって行われます。実際の判定基準をまとめたのが以下の表です。

例えば、組織型が「類内膜がん」の「G1(グレード1)」で、がんの広がり方が「筋層浸潤なし」であれば「低リスク群」です。 一方、広がり方が「脈管侵襲あり」であれば、「中リスク群」となります。

このように、「組織型」と「がんの広がり方」で細かくリスクが判定され、その結果にもとづいて、術後補助療法の有無や、その内容が決まるのです。

2) リスクの判定に使われる「組織型」とは?

組織型については、すでに「がんの”顔つき”を示す組織型」で紹介した通りです。類内膜がんの場合のみ「異型度」も合わせて判定が行われます。


3) リスクの判定に使われるがんの広がりとは?

子宮体がんの「広がり方」を判定する場合、以下の基準が使われています。

  1. 浸潤(しんじゅん)
    がんが広がって増殖していくことです。 浸潤の範囲が広がるほど、再発リスクが高くなります。 具体的には、子宮内膜→子宮筋層→(子宮頸部→)子宮外病変あり、というように外側に広がるほどステージが進行し、再発リスクは高まります。
    ちなみに「子宮外病変あり」は、子宮外に子宮体がんが浸潤している状態を示します。
  2. 脈管侵襲(みゃっかんしんしゅう)
    「脈管」とは、血管やリンパ管のことなので、「脈管侵襲」は、子宮の血管やリンパ管の中にがん細胞が広がっている状態を示します。


4) 「がんの広がり方」は手術後に行われる「術後病理診断」で決まる

手術療法を行う前には、MRIやCTを使用した画像診断によって、子宮体がんがどの程度広がっているかを推定します。その結果をもとにステージを判定して、どのような方法で手術を行うかを決めます。

しかし、画像診断には限界があります。例えば子宮の周辺のリンパ節に転移があるかどうかは、手術で切除したリンパ節を、顕微鏡を使って詳しく調べる必要があります。 これを「術後病理診断」と呼びます。「術後病理診断」を行うことで、子宮体がんがどこまで広がっているかを確実に診断できるのです。

「術後病理診断」によって決定したがんの広がり方をもとに、再発リスクの判定を行います。この判定に基づいて、「術後補助療法」が行われます。


5) リンパ節郭清を行うのは、「がんの広がり方」を正確に把握するため

現時点では、「リンパ節郭清」を行うことによって患者さんの予後(治癒の見込み)がよくなるかどうか、はっきりした結論が得られていません。 それに加えて「リンパ節郭清」を行うと、腹部や足がはれる「リンパ浮腫」が起こるリスクもあります。それにも関わらず、「リンパ節郭清」が行われるのは、「術後病理診断」によって切除したリンパ節を詳しく調べ、リンパ節への転移があるかどうかを確認するためです。

再発リスクは「がんの広がり方」に左右されますが、仮にリンパ節に転移があった場合「子宮外病変あり」となり、再発リスクの判定は、ほかの要素の結果にかかわらず「高リスク群」となります。

このようにリンパ節転移の有無は、再発リスクを正確に判定するために非常に重要な要素なのです。そのため、子宮体がんの手術療法では、一部の場合を除き「リンパ節郭清」が行われています。


全身の状態も考慮して治療法が選択される

子宮体がんの治療選択は、患者さんの「ステージ」や「組織型」だけでなく、患者さんの全身の状態も考慮した上で決定されます。 例えば、ステージや組織型の情報からは「手術可能」と判断される患者さんでも、全身の状態が悪ければ手術療法を選択せず、「放射線療法」や「薬物療法」に切り替える場合があります。


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