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卵巣の摘出はどうしても必要なの?

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子宮体がんの手術療法を行う際、子宮だけでなく、卵巣の摘出も行うのが標準治療になっています。

卵巣は、女性ホルモンを分泌する役割を果たしています。 そのため、子宮体がんの手術で卵巣を摘出すると、女性ホルモンの分泌が止まってしまうという問題があります。 特に閉経前の女性の卵巣を摘出すると、ホットフラッシュをはじめとする更年期症状が起こる場合があります。 加えて、骨粗鬆症や脳梗塞、心筋梗塞等の血管系イベントのリスクも高まるという問題があります。

それにも関わらず、閉経前の女性が子宮体がんになった場合も、やはり卵巣の摘出は必要なのでしょうか?

卵巣を残すことには2つのリスクがある

子宮体がんの患者さんが、仮に卵巣を切除せずに温存した場合、「子宮体がんが卵巣に転移しているリスク」だけでなく、 「子宮体がんとは別に、卵巣がんも発生しているリスク」があります。
手術前に、画像診断では卵巣がんの有無を確実に診断することが難しいため、子宮体がんの手術療法では卵巣の摘出が標準治療となっています。


1) 子宮体がんが卵巣に転移しているリスク

手術前にステージがⅠ期と診断された患者さんで、卵巣に転移していた方の割合は5%程度です。さらにⅡ期の患者さんでは17~20%と、どちらも無視することができない数字です。

卵巣に転移があった割合を、若い患者さんと高齢の患者さんで比較しましたが、 差が無いという結果が出ているため、基本はどの年代の患者さんにも卵巣の摘出が推奨されています。 卵巣の温存を検討する必要があるのは、20代30代の若年で温存希望がある患者さんになります。


2) 子宮体がんとは別に、卵巣がんも発生しているリスク

子宮がんになった患者さんは、卵巣がんも発生していることがあります。そのリスクは、若い患者さんの方が高いとされています。海外の報告では、閉経前の子宮体がんの患者さんのうち、22%に卵巣がんも見つかったというデータもあります。 ちなみに、国内の報告では年齢別に調べられたものはなく、全年齢の子宮体がんの患者さんのうち、卵巣がんも見つかる人の割合は2~10%という結果になっています。

卵巣摘出後「ホルモン補充療法」で女性ホルモンを補うことも可能

ホルモン補充療法(HRT)は、女性ホルモン「エストロゲン」を補う治療です。 更年期障害でも起こる「ホットフラッシュ」の改善だけでなく、骨粗鬆症や脂質異常症(高脂血症)にも効果があります。さらには抑うつの改善、皺の改善やコラーゲンの維持などの効果があることもわかっています。

HRTで使用する薬は飲み薬だけでなく、貼り薬や塗り薬もあります。患者さんの希望によって使い分けることができます。

1) ホルモン補充療法で、子宮体がんの再発リスクは上昇しない

子宮体がんは、エストロゲンの影響を受けて発生する「タイプ1」と、エストロゲンとは無関係な「タイプ2」の2種類があります。2つのタイプの比率を見ると、「タイプ1」の方が、数が多くなっています。

エストロゲンの影響を受けて発生する「タイプ1」の患者さんが多いことを考えると、手術後にエストロゲンを補充する「ホルモン補充療法」を行うことで、子宮体がんの再発リスクが上昇する危険はないのでしょうか?

Ⅰ期とⅡ期の患者さんについて、手術療法の後に「ホルモン補充療法」を行った患者さんの再発率と、行っていない患者さんの再発率を比較すると、差がないという結果が出ています。そのため、Ⅰ期とⅡ期の患者さんは安心して「ホルモン補充療法」を受けることができます。Ⅲ期とⅣ期の患者さんについては、医師と相談の上、「ホルモン補充療法」を行うかを決めることをお勧めします。


2) 閉経後の患者さんも「ホルモン補充療法」は可能

子宮体がんの「ホルモン補充療法」は、基本的に閉経前の患者さんに対して行われます。しかし、閉経後の患者さんでも、卵巣を摘出したあとにホットフラッシュの症状が悪化する場合があります。このような場合、症状によっては「ホルモン補充療法」を行う場合があります。気になる症状がある場合には、医師に相談するようにしましょう。

ちなみに、閉経後の患者さんが卵巣を摘出した後に、ホットフラッシュの症状が出るのは、閉経後も卵巣から女性ホルモンの分泌が少量ですが続いているからです。


卵巣温存について「強い希望」がある場合

 

1) 妊孕性温存の場合

妊孕性とは「妊娠する力」のことです。つまり「妊孕性温存」とは、妊娠する力を残しておくことです。 若い患者さんで妊孕性温存を強く希望する患者さんでは、子宮と卵巣の温存を行う場合があります。 ただし初期の子宮体がんであることのほかにも、いくつかの条件があります。 詳しくは「 ごく初期の子宮体がんでは、「妊娠する力」を残せる可能性がある 」をご覧ください。


2) 子宮の摘出は行い、卵巣の温存だけを希望する場合

以下の状態にある患者さんでは、温存の検討が可能な場合があります。

・ステージがⅠA期
・組織型が「類内膜がん」でグレードが高分化型(G1)

ただし、子宮体癌の基本術式は子宮と両側の付属器(卵巣と卵管)の摘出であり、その患者さんの状態を詳しく検討しないと、ほんとうに卵巣の温存が可能なのか、結論を出すことができません。また、仮に卵巣温存を行った場合、卵巣への転移だけでなく、卵巣がんが発生しているリスクもあることも理解しておく必要があります。

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