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非小細胞肺がん ステージⅠ~ⅢA 治療の中心は手術療法 ステージⅠでは「縮小手術」も可能

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非小細胞肺がんのステージⅠ~ⅢAの標準治療は「手術療法」です。標準治療として手術療法を行うことで根治を目指します。ステージⅠの肺がんの患者さんでは、切除範囲を必要最小限に抑えることができる「縮小手術」が選択可能な場合もあります。

非小細胞肺がんのステージⅠ~ⅢAの標準治療は「手術療法」ですが、患者さんの状態によっては手術療法の代わりに「放射線療法」が選択される場合があります。

たとえば高齢の患者さん、糖尿病、呼吸器や循環器の疾患がある患者さんは、手術を行うと体に負担がかかるだけでなく、手術後に肺の機能も低下するため、手術が難しい場合があります。そのような場合、放射線療法が選択されます。

人生100年時代を迎え、今後、高齢の方が肺がんになるケースも増えていくことが想定されます。これからは、放射線療法の重要性が増していくでしょう。

ステージⅠの手術療法では「縮小手術」が増えている!

肺がんの主な手術法は、「肺葉切除術」「肺区域切除術」「肺部分切除術」の3つです。これまでは、肺葉の切除とリンパ節の切除(リンパ節郭清)を同時に行う「肺葉切除術」が標準治療でした。

その背景にあるのは、「肺葉切除術」の方が、「肺区域切除術」や「肺部分切除術」よりも再発リスクが低いという1990年代の研究結果です。

1)早期発見の増加で縮小手術の意味が見直された

肺葉切除術は、肺区域切除術や肺部分切除術と比べると再発リスクが低いという研究は、1980年代に手術を受けた患者さんのその後を追跡調査して解析を進め、1995年に結果が発表されたものです。

しかし、当時と比較すると、現在ではCT画像診断が当たり前になっただけでなく精度も向上。より早期の段階で、肺がんが発見されるようになりました。早期の肺がんは悪性度が低く、転移のリスクも低いことがわかっています。そのため、「肺葉切除術」よりも切除範囲を縮小した「縮小手術」が増えているのです。 

縮小手術が増えているのは、手術で肺を切除すると切除した部分は再生しないからです。縮小手術によって切除範囲を減らすと、手術後に肺機能が低下する割合を少なくすることができます。

縮小手術には「肺区域切除術」と「肺部分切除術」があります。肺区域切除術と肺部分切除術を比較すると、肺部分切除術の方が切除する範囲が小さくなります。

2)早期発見が可能になったのは画像診断の進歩のおかげ

初期がんが発見できるようになったのは、従来のCTよりも、より細かい部分の状態を確認できる「高分解能CT」の登場によって、画像診断の精度が向上したからです。

下の2枚の画像は、高分解能CTで撮影したものです。左右を比較すると、左の画像ではがんであると疑われる部分が薄く写っています。これを「すりガラス濃度結節」と呼びます。すりガラス濃度結節は、「非浸潤がん」と呼ばれる悪性度が低い初期段階の状態であるとされています。このような段階で肺がんが発見されるようになったことで、縮小手術の件数が増えているのです。

「縮小手術」は「消極的な理由」でも行われる

縮小手術は、「切除範囲を縮小しても十分に根治を目指せる」という「積極的な理由」で行われていることを紹介しました。

それとは別に、消極的な理由で「縮小手術」が選択される場合があります。例えば、「標準治療は肺葉切除術だけれども、体への負担が大きいため『縮小手術』に切り替える」というケースです。背景にあるのが、高齢化が進み、高齢の肺がんの患者さんが増えていることです。こうしたケースでは身体状態が良くない、または糖尿病、呼吸器や循環器などの疾患があるため、標準的な手術療法が行えない場合があります。また、高齢者の方でなくても、身体状態がよくない、持病があるなどの理由で標準的な手術療法が難しい場合があります。

たとえば、右上葉の「肺葉切除術」が必要な患者さんがいるとします。この患者さんには肺の疾患があって肺機能が低下していることがわかった場合、肺葉切除術によって肺機能がどの程度失われるかを、手術前に検討する必要があります。すでに紹介した失われる肺機能のメドを計算する方法を使うと、以下の結果になります。

右上葉の「肺葉切除術」を行って肺機能が17%失われると、手術後に生活の質(QOL)が大幅に低下すると予測される場合、肺区域切除術に切り替えれば、失われる肺機能の割合を6%に減らせます。このように切除範囲を減らすと再発リスクは高くなりますが、QOLの低下は防げます。「再発を避ける」と「QOLの低下を避ける」。両者のバランスを考慮して治療方針を検討した結果、「根治のためには肺葉切除術が必要だが、QOLを重視して縮小手術に切り替える」という「消極的な理由」で縮小手術が選択される場合があるのです。

「手術療法」の代わりに行われる「放射線療法」そのメリットとデメリットは?

身体状態が良くない、持病があるなどの理由で手術療法が行えない場合、代わりに放射線療法が選択される場合があります。

放射線療法は、手術療法と同様に根治を目指して行われます。高齢者の方や大きな持病がある方の場合、手術療法と同等の生存率があると報告されています。

放射線療法が体への負担が少ない理由は、メスを使ってがんを切除する手術療法とは違い、放射線を照射することでがんを死滅させるからです。体にメスを入れなくて済む分だけ体への負担を減らすことができます。

ただし、放射線療法にはデメリットもあります。それは、手術療法とは違い、がんがある部分の詳しい検査ができないことです。手術療法を行った場合、手術後に切除した組織を詳しく検査します。その結果、がん細胞をすべて切除できたかを確認できるだけでなく、肺がんの性質も詳しく調べられます。そのため、手術後の治療方針が立てやすくなります。一方、放射線療法はがんを体外に取り出さないため、このような検査を行うことができません。

放射線療法のメリットとデメリットを理解した上で、ステージⅠ~ⅢAで手術を受けることができる身体状態の患者さんが、手術療法の代わりに放射線療法を選択する場合もあります。

薬物療法

1)ステージⅠ

ⅠAの一部(がんが2cmより大きい場合)とⅠBでは手術後に化学療法を行います。使用されるのは、テガフール・ウラシル配合剤(UFT)と呼ばれる内服薬です。

[使用法]

毎日服用、2年間続けます。

[副作用]

食欲不振、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢、色素沈着、体のだるさなど

2)ステージⅡ、ⅢAの一部

手術の後に、化学療法として「シスプラチン併用療法」を行いますこれは、プラチナ製剤である「シスプラチン」と別の細胞障害性抗がん薬の2剤を組み合わせる方法で、シスプラチンとビノレルビンを組み合わせる方法が一般的です。

[シスプラチン・ビノレルビン療法]

2種類の薬剤を点滴します。4週間を1クールとして複数回行います。

[副作用]

白血球減少、腎障害、吐き気、嘔吐、食欲不振、全身倦怠感、脱毛、発疹、ほてり、貧血、手足のしびれなど

3)化学放射線療法として行われる薬物療法

すでに紹介したように、手術が標準治療の患者さんでも、高齢で身体状態が悪い、肺機能が低下している、持病があるなどの理由で手術ができない場合があります。代わりに放射線療法を行うことがあります。その際、放射線療法の効果を高めるために薬物療法を組み合わせる場合があります。これを「化学放射線療法」と呼びます。

新たな目的で活用が始まった光線力学的治療法

「光線力学的治療法」は、がん組織にレーザー光を当て死滅させる治療です。従来は、肺機能が低下しているなどの理由で手術が行えない患者さんに対して行われていました。しかし最近では、新たな活用が始まっています。

具体的には、以下の条件に当てはまる患者さんにも実施されています。

・がんの場所
肺門部にあって気管支鏡でがんの状態が観察できる

・状態
大きさが1cm以下で気管支への浸潤の程度が小さい

「光線力学的治療法」には、「腫瘍親和性光感性物質」が使われます。この物質には、がん細胞に吸収されやすく光を発するという性質があります。「腫瘍親和性光感性物質」を注射してから一定時間経過後、気管支鏡を挿入して光を発している部分まで進めます。次に、光を発している部分にレーザー光を当て、がんを死滅させます。

監修医師

小島 史嗣 Fumitsugu Kojima

聖路加国際病院
専門分野:呼吸器外科

専門医・認定医:
日本外科学会 専門医、日本呼吸器外科学会 専門医・認定ロボット手術プロクター、日本がん治療学会 認定医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


後藤 悌 Yasushi Goto

国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
専門分野:臨床腫瘍学

専門医・認定医:
日本内科学会認定内科医 総合内科専門医 指導医、日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 指導医、日本がん治療認定機構 がん治療認定医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医 指導医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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