手術前には、外来で婦人科内診や画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査)、血液検査などを行い、情報を集めます。
1.内診
婦人科で行う一般的な診察です。腟から指を入れて卵巣と子宮の状態を調べます。卵巣と子宮の大きさや可動性(臓器がまわりに癒着していないか)などを検査します。また、直腸などに異常がないか、お尻から指を入れて調べることもあります。
2.超音波検査
腟の中から超音波を当てる経腟超音波検査では、卵巣や子宮などの骨盤にある臓器の状態を画像で見ることができます。卵巣腫瘍の大きさや形を確認します。腹水がたまっているかどうかも確認することができます。腫瘍が大きい場合は、お腹の表面に超音波を当てて検査を行うこともあります。
3.腫瘍マーカー検査
腫瘍マーカーとは血液検査の一種です。がんが体の中にあると大量に産生されます。がんの種類によって腫瘍マーカーの項目が異なります。卵巣がんの腫瘍マーカーの代表的なものにCA125があります。腫瘍マーカーの値の高さよりも、治療で値がどう変化するかを見ることが大事です。
[卵巣がんワンポイント]
「腫瘍マーカーの値が高い」イコール「がん」、とは限らない!
よく誤解されますが、腫瘍マーカーの値が高いからがんがあるとは限りません。婦人科では、良性の子宮内膜症があるだけでもCA125が上昇することはよくあります。また、逆に腫瘍マーカーの値が正常でも、がんを認めることもあります。腫瘍マーカーの値だけでがんの正確な評価は行えないため、病気の評価は画像検査などを組み合わせて総合的に行います。腫瘍マーカーの値の解釈は専門の医師と行うようにしましょう。
4.CT検査・MRI検査
CT検査では、卵巣から離れた場所へのがんの転移がないかどうかを調べます。MRI検査では卵巣腫瘍自体の大きさや形、卵巣周囲の臓器へがんが広がっていないかなどを調べます。これらの検査により、手術前のがんの進行期を予測します。
最近ではPET-CT検査により、がんの状態を調べることがあります。PET-CT検査はがん組織が正常組織に比べて糖を多く消費する性質を利用した検査で、CTでわかりにくい病巣が確認できることがあります。しかし非常に高価な検査であり、行える施設が限られていることから、主治医の先生と検査が必要かどうかよく相談しましょう。
5.卵巣がんの遺伝子検査
卵巣がんの約10~15%が遺伝的な要因であると考えられているため、遺伝子検査で重要な情報を得ることができます。遺伝子検査を受けることで得られる情報は、患者さん本人のことだけではなく、血のつながっている家族にも影響を与えます。検査を受ける前には、その目的や検査を受けることで得られるメリットとデメリットを、十分に検討しておく必要があります。
①BRACAnalysisとは?
卵巣がんなどに関係するBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の病的変化を調べる検査を、BRACAnalysisといいます。保険適応となるのは、乳がんか卵巣がんを発症していて、HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)の可能性を考える場合です(2020年8月現在)。私たちは以下の条件を満たす患者さんにHBOCの可能性があると考えています。
HBOC(遺伝性乳がん卵巣がん症候群)の可能性
- 45歳以下で乳がんと診断された
- 60歳以下でトリプルネガティブ(TN:二つの女性ホルモンとHER2タンパクがない)の乳がんと診断された
- 両側の乳がんと診断された
- 片方の乳房で複数回、原発性乳がんと診断された
- 男性で乳がんと診断された
- 卵巣がん、卵管がん、腹膜がんと診断された
- がん遺伝子パネル検査の結果、BRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子の病的バリアント変異を生まれつき持っている可能性がある場合
- 自身が乳がんと診断され、血縁者に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる
- 血縁者がすでにBRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子の病的バリアント変異を持っていることがわかっている
上のように、卵巣がんと診断された患者さんに対して、HBOCの可能性を考えて遺伝子検査を提案することがあります。
また、ステージⅢ・Ⅳの進行卵巣がんの患者さんに対して、術後治療の維持療法として、分子標的薬の1つであるPARP阻害薬が使えるかという確認のために、BRACAnalysisを行うことがあります。この検査でBRCA遺伝子の病的バリアント変異が見つかった場合、PARP阻害薬が効きやすいタイプのがんである可能性が示唆されます。
②HRD検査とは?
2021年より、BRACAnalysis検査に加えてHRD検査が行えるようになりました。HRD検査は、遺伝子を修復する機能の一つであるHRD(相同組み換え修復欠損)を診断する検査です。BRCA遺伝子の病的バリアント変異もこれに含まれます。この検査が陽性であれば、PARP阻害薬が効きやすいタイプのがんである可能性があります。PARP阻害薬については後述します。
監修医師
金尾 祐之 Hiroyuki Kanao
公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科
専門医・認定医:
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。
温泉川 真由 Mayu Yunokawa
公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:腫瘍内科(主に婦人科がん)
専門医・認定医:
日本産科婦人科学会専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本細胞学会細胞診専門医、日本臨床腫瘍学会指導医
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。
伏木 淳 Atsushi Fusegi
公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科
認定医:
日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医
専門医:
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。