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治療法の詳細

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一般的にがんの治療法には、手術、化学療法(抗がん剤治療)、放射線治療があります。卵巣がんの場合は手術と化学療法を組み合わせて行うのが基本となります。放射線治療は、卵巣がんが脳に転移した場合など限られた場合にのみ行われます。

卵巣がんの治療 = 「手術」+「抗がん剤治療」

術中迅速病理組織検査:手術中に卵巣組織を取ることで初めて診断がつく!

卵巣はお腹の奥にある臓器です。そのため、画像検査である程度の情報を集めることができても、最終的に「がん」と診断するためには、基本的に卵巣組織を摘出することが必要になります。手術前ではなく、手術「中」に診断をつけるということが卵巣がんの特徴であり、他のがんと異なるところです。
手術で卵巣腫瘍を摘出し、顕微鏡などで観察し検査する、病理組織検査を手術中に行うことで、悪性度を判定します。この検査を「術中迅速病理組織検査」と呼びます。手術中の限られた時間の中で、腫瘍ががんであるかどうかの判定を行う暫定的な診断です。術後に病理組織診断検査を再度行い、最終的な診断を行います。
術中迅速病理組織検査では、確実に「がん」といえる場合にしか「がん」と判定しないため、診断精度は80~90%です。術中迅速病理組織検査で良性と診断されても、最終的にはがんと診断される場合もあります。そのため、術後の最終病理診断の結果に基づいて再度手術を行うこともあります。

腫瘍減量術:卵巣がん手術の基本原則

卵巣がんは、手術の時点ですでにお腹の中のあちこちにがんが広がっている、播種(はしゅ)を認めるときがあります。このような場合は、播種をすべて取り去り、がんの完全摘出を目指した手術を行います。この手術を腫瘍減量術と呼びます。手術のときに残るがんが小さければ小さいほど、卵巣がんの治療成績がいいことがわかっています。
卵巣がんの手術はこの腫瘍減量術が基本となります。完全に摘出を行うために、腸管や横隔膜といった他の臓器の合併切除を行うことがあります。
以下にお示しする内容は、「上皮性卵巣がん」に対する一般的な治療方針となります。他の組織型では多少異なる場合がありますので、詳しくは主治医に相談してください。

ステージⅠの治療

ステージⅠの卵巣がんは、がんが卵巣や卵管内に限定的に存在している状態です。この場合はまず腫瘍がある付属器(卵巣と卵管)を摘出し、術中迅速病理組織検査を行います。その結果、「良性」と診断された場合は、治療終了となります。しかし、「境界悪性」か「悪性」と診断された場合はさらに手術が続きます。
「境界悪性」の場合は、もう片側の付属器・子宮と大網(胃の下にある内臓脂肪)を摘出します。「悪性(がん)」と診断された場合は、片側付属器・子宮・大網に加えて、卵巣に関係のあるリンパ節を摘出(郭清〔かくせい〕)することで、がんの広がり具合を診断します。場合によっては腹膜の一部を顕微鏡で詳しく調べる生検をすることもあります。
卵巣だけにがんがあるのに、なぜここまで大がかりな手術が必要か疑問に思われるかもしれません。この摘出範囲はいずれも卵巣がんが転移を起こしやすい箇所で、これらの部位すべてにがんがないことが確認されて初めて、ステージⅠといえるのです。

がん細胞は、リンパ節を通じ全身に広がるため、がん周辺のリンパ節を切除するリンパ節郭清は、がんの広がり具合を診断するために必要であると述べましたが、治療意義(生存期間を延ばすことができるかどうか)については、現在のところはっきりとしていません。そのため、患者さんの状態、または、病院によっては行われない場合があります。
以上の手術を行い、正確な進行期(がんの広がり)が決定します。ステージⅠA・ⅠBで高分化型(悪性度が低い)のがんであれば、手術のみで治療は終了となります。ステージⅠA・ⅠBでも高分化ではない(悪性度が高い)がんや、ステージⅠC以上の場合は、再発予防目的に術後化学療法を行います。

ステージⅡの治療

ステージⅡの卵巣がんは、がんが卵巣や卵管だけでなく子宮・膀胱や直腸などの骨盤内臓器に進展している状態です。そのため、ステージⅠの手術に加えて、腫瘍減量術(がんが広がっている播種を合わせて摘出)を行うことになります。膀胱側にがんが広がる場合は、膀胱表面の腹膜を切除しがんを摘出します。直腸表面にがんが浸潤する場合は、直腸合併切除を行うことでがんを摘出します。これらの方法により、ステージⅡの多くの症例で腫瘍は完全摘出が可能です。ステージⅡの場合は基本的に術後抗がん剤治療が必要となります。

ステージⅢの治療

ステージⅢの卵巣がんは、がんが所属リンパ節に転移をしているか、がんが骨盤を超えて上腹部の腹膜や臓器に広がっている状態です。この2つの状態は区別して治療方針を検討しなければなりません。前者は「リンパ節転移」、後者を「腹膜播種」もしくは「がん性腹膜炎」と呼んだりします。
リンパ節転移の場合は、ステージⅠの場合と同じ手術(リンパ節郭清)を行うことでがんの完全摘出を行います。
腹膜播種の場合は、まず手術でがんが完全摘出可能かどうかを事前に検討します。完全摘出可能と判断する場合は、ステージⅡと同様、腫瘍減量術を行います。上腹部にはいろいろな臓器があり、この部位に播種がある場合はその臓器を合併切除することもあります。患者さんの体力や播種状況により完全摘出が困難と判断する場合は、抗がん剤治療を先に行うことで、いったんがんの病勢を弱め、その後、腫瘍減量術を行うこともあります。

ステージⅣの治療

ステージⅣの卵巣がんは、がんが肝臓や肺などの遠い臓器にまで広がっている状態です。この状態を遠隔転移といいます。手術で完全に取り切ることは難しく、抗がん剤治療が主体となります。ステージⅢの腹膜播種の場合と同様、抗がん剤治療を行うことで手術可能な状況になった場合は、腫瘍減量術を行うことがあります。

化学療法

卵巣がんは抗がん剤がよく効くがんです。初回治療では手術と抗がん剤の組み合わせが、再発治療では抗がん剤が基本となります。
現在ではTC療法という抗がん剤治療が標準治療となっています。これはパクリタキセルとカルボプラチンというプラチナ製剤を含む2種類の抗がん剤を3週間ごとに点滴で投与します。卵巣がんの多数の患者さんでがんが縮小され、生存期間が延長するといわれています。

ベバシズマブ
2013年に分子標的薬であるベバシズマブが、卵巣がんの治療に使えるようになりました。分子標的薬は、抗がん剤とはまったく異なる薬剤です。病気の細胞表面のたんぱく質や遺伝子を効率よく攻撃する薬で、がん細胞に特徴的な構造に対し特異的に作用するため、正常細胞への影響は少ないといわれています。ベバシズマブは、がんの性質の1つである血管新生(がん細胞増殖のために新しい血管を作ること)に関係する構造をターゲットにし、がん細胞の増殖を抑えます。その結果、再発せずに生存できる期間(無再発生存期間)を延長する報告がされています。
ベバシズマブには特徴的な副作用があります。高血圧、タンパク尿、消化管穿孔などがあげられます。消化管穿孔は非常に重篤な副作用です。そのため、ベバシズマブは、主治医の先生とメリットとリスクを十分に協議したうえで使用を検討してください。

オラパリブ
2018年4月から、分子標的薬のオラパリブが、再発卵巣がんにおける維持療法として、また2019年6月から、BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の病的バリアント変異を認める卵巣がんの初回抗がん剤治療後の維持療法として、使用可能になりました。
オラパリブはPARP阻害薬です。PARP阻害薬は、分子標的薬の1つで、PARP(損傷したDNAを修復する酵素)の機能を妨げ、がん細胞の増殖を抑える薬です。オラパリブは、効果を示しそうな卵巣がんのマーカーとして、(1)プラチナ感受性(カルボプラチンを使用した抗がん剤に効果があること)であること、(2)BRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアント変異を認めること、があります。オラパリブにも特徴的な副作用があり、吐き気、貧血、疲労、骨髄抑制などがあげられます。
また、2021年12月からは、HRD陽性であれば、ベバシズマブ・オラパリブを両方使用する維持療法もできるようになりました。

ニラパリブ
2020年より、がん遺伝子の特徴であるHRD(相同組み換え修復欠損)確認できるようになりました。この結果次第でニラパリブという新しいPARP阻害薬が使用できるようになりました。

現在、維持療法の種類は多岐にわたるので、自分にどの治療が適切なのか、主治医としっかり話し合って治療方針を決める必要があります。

術前化学療法

患者さんの全身状態や、がんが進行していて腫瘍減量術が難しいと予想される場合は、手術前に抗がん剤治療を行うことがあります。抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術を行うことで、腫瘍の完全摘出率を向上させます。

1) 術前化学療法のメリット
術前化学療法のメリットは以下です。

①患者さんの全身状態が悪いのはがんが原因であることがほとんどです。腫瘍が大きいことや、腹水・胸水の影響で全身状態が悪くなっています。抗がん剤で腫瘍が小さくなればそれらの問題が改善し、その結果、全身状態が回復することで、手術を行うことができるようになります。
②抗がん剤で腫瘍を小さくすれば、手術における侵襲(負担)を減らす可能性があります。出血量や手術時間の短縮が期待できます。また、進行卵巣がんの初回手術でよく行われる、腸や横隔膜などの他臓器合併切除を行わずに腫瘍を完全摘出できる可能性が上がり、それに伴い合併症が減ると期待されています。

2) 術前化学療法のデメリット術前化学療法には問題点もあります。

①初回手術を行わないため、手術による卵巣がんの正確な診断と進行期評価が行えなくなります。術前化学療法前に正確な評価を行うために、腹腔鏡でお腹の中を観察し、腫瘍組織を生検して正確な診断と進行期評価を行う病院もあります。②ある一定確率で、抗がん剤が効かない可能性があります。明細胞腺がんや粘液性腺がんといった、組織型によっては抗がん剤が効きにくいタイプのものがあります。
③抗がん剤を先に行ってから手術をするときには、残っているがん組織を摘出することが目標になります。このがん組織は抗がん剤の影響を当然受けており、HRD検査や遺伝子パネル検査の結果に影響を及ぼす可能性があります。これを懸念し、①と同様に、治療前に腹腔鏡で腫瘍生検を行う病院もあります。

初回手術がいいのか、術前化学療法を行うのがいいのかは、正確な術前評価が必要になります。主治医とよく相談し、メリット・デメリットを整理したうえで治療方針を決定しましょう。

妊孕性温存(にんようせいおんぞん)の治療:妊娠能力を温存できる?

妊孕性とは、「妊娠する能力」のことです。卵巣がんの手術を行う際、原則的には前述の手術を行います。しかし、①以下の条件を満たし、②将来のために妊娠能力温存を希望する、患者さんに対しては、腫瘍のある側の付属器だけを摘出する妊孕性温存手術(患側付属器摘出術+大網切除術)を行うことがあります。
条件として大事なことは、「組織型」と「進行期(ステージ)」です。一般的に以下の条件を満たすものは妊孕性温存ができるといわれています(詳細は専門病院におたずねください)。
・悪性卵巣胚細胞腫瘍
・卵巣境界悪性腫瘍
・高分化の漿液性腺がん、粘液性腺がん、類内膜腺がんで、ステージⅠA
ただ、このような手術は標準的な治療ではないため、通常の治療と比べて再発の可能性が高いかもしれません。妊孕性温存に関しては主治医とよく相談して方針を決定してください。

再発した場合の治療

再発とは、がんがなくなった後に再びがんが出現することです。卵巣がんの場合、初回に発見されたときに進行していることが多い影響もあり、約半数の患者さんが再発するといわれています。再発した場合は完全に治すことは難しく、治療の目標は延命と症状緩和になります。
再発した場合は、抗がん剤治療が主な治療法となります。初回の抗がん剤治療が終了してから再発するまでの期間によって、治療方針が変わります。再発までの期間が6カ月未満の場合は、前回の治療で用いた抗がん剤では効果が低いことが予想され、異なる種類の単剤治療が行われます。再発までの期間が6カ月以上の場合は、プラチナ製剤を含む2剤併用療法が行われます。またこの場合では、抗がん剤治療終了後にPARP阻害薬を維持療法として用いることで、無再発生存期間を延ばすことが期待できます。現在、保険で使用可能なPARP阻害剤はオラパリブとニラパリブがあります。
再発腫瘍が取り切れる可能性がある場合に、治療として手術を行う場合もあります。これは、再発した時点での状況(患者さん本人の元気度、再発までの期間、再発時点で腹水がたまっているか、など)を考慮して決定されます。具体的な治療方針は、主治医とよく相談して決定してください。

監修医師

金尾 祐之 Hiroyuki Kanao

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科

専門医・認定医:
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


温泉川 真由 Mayu Yunokawa

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:腫瘍内科(主に婦人科がん)

専門医・認定医:
日本産科婦人科学会専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本細胞学会細胞診専門医、日本臨床腫瘍学会指導医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


伏木 淳 Atsushi Fusegi

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科

認定医:
日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医

専門医:
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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