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卵巣がんって、どんな病気?

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卵巣って、どんな臓器?

卵巣とは女性にのみある臓器であり、骨盤にある子宮の左右に1つずつあります。卵巣は、卵子(卵細胞)の生成、成熟、排卵を行う生殖器官であり、女性ホルモンの分泌などに携わり、女性の一生においてさまざまな役割を果たします。

卵巣腫瘍と卵巣がん:「腫瘍」と「がん」は異なります!

卵巣に発生する腫瘍は、その性質から良性・境界悪性・悪性に分けられます。卵巣にできた「悪性」の腫瘍卵巣がんといいます。「卵巣腫瘍」イコール「卵巣がん」ではないので注意してください。卵巣に腫瘍ができたからといって、良性腫瘍のこともあり、すべてががんであるとは限らないのです。

腫瘍ってなに?
腫瘍とは、細胞が過剰に増殖してできた組織です。その性質により、一般的に腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)に区別されます。良性腫瘍・悪性腫瘍はともに、自律的に細胞の増殖を続けます。しかし、がんの場合は、まわりに染み出るように広がったり(浸潤)、遠くの臓器へ移ったり(転移)することで、がん組織自体が全身へ広がり他の組織が摂取する栄養を奪うため、体が衰弱します。
卵巣腫瘍の場合は、さらに良性と悪性(がん)の間である境界悪性腫瘍があり、これらが卵巣腫瘍の多種多様性を表しています。境界悪性腫瘍は経過がよく予後のよい腫瘍ですが、まれに悪性腫瘍のように転移や再発、また、悪性腫瘍に変化(悪性転化)ことがあります。悪性腫瘍に比べて悪性度は低いですが、逆に治療後早期ではなく10年や20年と、長期間経過してから再発することがあります。そのため、境界悪性腫瘍の治療後は、長期的な経過観察が必要です。

卵巣がんの原因とは?

卵巣がんの直接の原因はよくわかっていません。さまざまな遺伝子変異の積み重ねで発生するとされています。また生活習慣の欧米化に伴い、卵巣がんが増加しているといわれています。一般的に卵巣がんの発症リスクを高めるものには、以下の3つがあげられます。

1.月経の長い人がリスクになる
卵巣がんの発症メカニズムとして、排卵するときに、卵巣表面にできる傷が繰り返されることが原因だという説があります。排卵回数が多いほどリスクが高くなるということです。排卵は月経のたびに起きるので、
初経が早かった人
閉経が遅かった人
妊娠経験のない人(妊娠中は排卵がありません)
がリスクになると考えられています。

[卵巣がんワンポイント]
経口避妊薬:ピルの内服は卵巣がんを減らす?
経口避妊薬であるピルを長期間服用することで、卵巣がんの発生リスクを減らすことができるという報告があります。5年継続することで約3割、10年で約4割、15年では約5割まで卵巣がんになる可能性を抑えるといわれています。
卵巣は排卵のたびに、表面に傷ができるなどのストレスを受けるのですが、ピルを服用することで排卵が抑制されるため、卵巣がストレスから保護されます。このストレス減少効果が卵巣がん抑制につながるといわれています。

2.子宮内膜症がリスクになる
子宮内膜症とは、子宮内膜に似た組織が、子宮内膜以外の別の場所に増殖する病気のことです。子宮内膜症の代表的な症状は痛みと不妊です。痛みは下腹部痛・腰痛・性交痛・排便痛など、さまざまな種類があります。
子宮内膜症が卵巣にできる場合、チョコレート嚢胞と呼ばれることがあります。チョコレート嚢胞とは、卵巣内の出血がだんだん溜まり、卵巣に「たまり」ができたものです。基本的にチョコレート嚢胞は閉経後には増大しませんが、大きいチョコレート嚢胞は卵巣がんのリスクであるといわれています。そのため「がん化」を予防するために、ある程度大きいチョコレート嚢胞に対しては、摘出を考えなければなりません。

[卵巣がんワンポイント]
子宮内膜症から発生する「明細胞がん」
子宮内膜症からできる卵巣がんは、明細胞がんと類内膜がんという種類のがんになることが多いです。そのなかでも明細胞腺がんは、日本では卵巣がんのなかで2番目に多く、患者さんの4人に1人ほどの割合でみられるがんですが、欧米では比較的まれです。明細胞腺がんは、その他の漿液性腺がんや類内膜腺がんといった種類のがんに比べて、抗がん剤による効果が低いことが指摘されています。
日本人の卵巣がんに占める明細胞がんの割合は、他国に比べて明らかに多く、ピルの普及の低さ、そして、子宮内膜症に対するピル内服治療を行っている患者さんが少ないことが影響しているといわれています。

3.遺伝がリスクになる
卵巣がんの約10~15%は、遺伝が強く関与していると考えられています。そのうちの代表的なものが、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群HBOC)」です。米国のある有名女優が、遺伝子リスクを懸念して予防的手術を受けられたことは、みなさんの記憶にもあると思います。HBOCの原因遺伝子としては、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の2つが代表的ですが、最近は新たながん関連遺伝子も発見されてきています。こういった遺伝子の変化は、次の世代に受け継がれることがあります。その点からも、卵巣がんや乳がんになられた血縁関係の方が多くいらっしゃるときは、リスクが高いと考えられます。
卵巣がんの一般的な罹患率は1%前後ですが、BRCA1遺伝子に病的変化がある場合は39~63%、BRCA2遺伝子に病的変化がある場合は17~27%にリスクが上がるといわれています。
BRCA1遺伝子もBRCA2遺伝子も男女関係なく持っている遺伝子ですが、この2つの遺伝子異常(病的バリアント変異)は、女性の場合には乳がん、卵巣がんや、すい臓がん男性の場合には前立腺がん、すい臓がんや乳がんなどを発症しやすくなるといわれています。HBOCと診断された場合は、特別な検診や、がん発症前に卵巣や卵管を切除するリスク低減手術を行うことで、がん発症を予防することを考えなければなりません。

[卵巣がんワンポイント]
BRCA1・BRCA2遺伝子とは?
遺伝子は、からだの設計図のようなものです。それぞれの遺伝子には、からだを作るための情報やからだの機能を維持するための情報が含まれています。
BRCA1遺伝子もBRCA2遺伝子も、だれもが持っている遺伝子です。これらの遺伝子から作られるタンパク質にはDNAの修復機能があります。つまり、DNAが何かしらの理由で傷ついてしまったときに、傷を治し正常に戻すことができます。この機能を、相同組み換え修復機能と呼びます。
BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に病的バリアント変異(たんぱく質が作られないタイプの遺伝子変化)があった場合には、この機能が働かず、傷ついたDNAを修復することができません。その結果、がんを起こしやすくなります。このように、相同組み換え修復機能に異常がある状態を、HRD(相同組み換え修復異常)と呼びます。近年、この性質に注目した新しい種類の治療が使えるようになってきています。

卵巣がんは自覚症状が少ない:「サイレントキラー」と呼ばれるゆえん

卵巣がんは、腫瘍が小さくても、婦人科検診で早期に発見されることもありますが、腫瘍がかなり大きくなるまで自覚症状が出ないことが多く、進行してから発見されることが多いのが現状です。腫瘍が大きくなると、まわりの臓器を押してさまざまな症状が出現し、病院を受診して、初めて卵巣がんとわかることが多いのです。また腹水や胸水を伴うことがあります。

卵巣がんの主な症状
①腹部膨満感
腫瘍がお腹を押したり、腹水がたまったりすることでお腹が張ります。「太った」と表現する方もいます。
②腹痛
腫瘍がお腹を押したり、腹水がたまったりすることで痛みを発します。腫瘍が破れたりすることでも痛みが出ます。
③食欲不振
腫瘍が腸を押したり、腹水がたまったりすることで食べ物が通りづらくなり、食欲がなくなります。
④呼吸苦
お腹が押されたり、腹水がたまったりした結果、息苦しくなることがあります。また胸水がたまると、肺が押されて息苦しくなります。

卵巣腫瘍がホルモン産生型の腫瘍(性索間質性腫瘍など)だった場合、ホルモン過剰により不正性器出血や乳房腫大などを認めることがあります。

卵巣がんの種類とは?:がんは「組織型」によって異なる

卵巣がんの状況を確認するときに、がんの組織型と進行期(ステージ)は非常に重要です。組織型とは腫瘍の種類のことで、がんの組織型によって治療反応や進行スピードなどが異なります。進行期とは、どれくらいがんが広がっているかを示すものです。これは他のがんも同じです。
卵巣腫瘍は、悪性度によって、良性・境界悪性・悪性(がん)がありますが、悪性度以外に組織型によっても特徴が異なります。
卵巣にはさまざまな組織が存在します。卵巣の表面を覆っている「表層上皮」、卵巣にある各卵胞の間にある結合組織で構成される「卵巣間質」、女性ホルモンを産生する「性索間質」、そして卵子の元となる「胚細胞」などがあります。卵巣腫瘍は、どの組織に由来するかによって、分類されます。
一般的に卵巣がんと表現するときは、上皮性卵巣がんを示すことが多いです。

1.表層上皮性・間質性腫瘍
卵巣がんの約90%を占めるのが、卵巣の「表層上皮」と「卵巣間質」組織由来の腫瘍です。表層上皮性・間質性腫瘍は、大きく「漿液性(しょうえきせい)がん」「類内膜がん」「粘液性がん」「明細胞がん」の4種類に分けることができます。組織型によってがんの性質が異なるため、治療を選択するうえで、どの組織型なのか把握することは非常に重要です。漿液性がんは抗がん剤がよく効きますが、日本に多い明細胞がんや粘液性がんは、抗がん剤が効きにくいといわれています。

2.性索間質性腫瘍(せいさくかんしつせいしゅよう)
女性ホルモンを産生する「性索」組織が由来の腫瘍は、ホルモンを産生する腫瘍となることが多いです。エストロゲンを産生する顆粒膜細胞腫と莢膜細胞腫アンドロゲンを産生するセルトリ・ライディッヒ細胞腫などがあります。ホルモンが過剰に産生されるため、若い女性が男性化したり、閉経女性が若返ったりするなど、特徴的な症状を認める場合があります。

3.胚細胞腫瘍
卵子の元となる「胚細胞」組織が由来の腫瘍です。全卵巣腫瘍の15~20%を占め、特に10~20歳代の若い女性に多く発症します。大部分は良性の腫瘍(成熟奇形腫)ですが、まれにがんが発生することがあります。がんの種類として未熟奇形腫、卵黄嚢腫瘍(らんおうのうしゅよう)、未分化胚細胞腫瘍などがあります。
このタイプのがんは若年者に起きることが問題となりますが、抗がん剤が非常によく効きます。そのため、適切に治療を受ければ完治できる可能性が高く、また妊孕性(妊娠する能力)を残すこともできます。

卵巣がんの進行期(ステージ):がんの広がり

がんの進行期(ステージ)、つまり、がんの広がりを知ることは、治療方針を決定し予後を推測するうえで、とても重要です。しかし卵巣はお腹の中にあるため、術前に正確な情報を知るのは難しいことが多いです。手術によってお腹の中を詳しく調べ、腫瘍を摘出して検査することによって、がんの広がりを判定することが一般的です。
がんのステージは4段階に分類されます。卵巣がんの場合は以下のようになります。

卵巣がんの5年生存率

卵巣がんの5年生存率(治療を受けてから5年後に生きている人の割合)は、ステージⅠが88.9%、ステージⅡが77.2%、ステージⅢが49.2%、ステージⅣが33.2%です。

出典:2020年 日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会 第61回治療年報

監修医師

金尾 祐之 Hiroyuki Kanao

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科

専門医・認定医:
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医、日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


温泉川 真由 Mayu Yunokawa

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:腫瘍内科(主に婦人科がん)

専門医・認定医:
日本産科婦人科学会専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、日本細胞学会細胞診専門医、日本臨床腫瘍学会指導医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。


伏木 淳 Atsushi Fusegi

公益財団法人がん研究会 有明病院
専門分野:婦人科

認定医:
日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医

専門医:
日本産科婦人科学会専門医、日本婦人科腫瘍学会腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。

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