「生検」では、前立腺の組織を採るために、ボールペンの芯ほどの太さを使います。これを前立腺に刺した後に、その針を抜くことで組織を採取します。
針を体に刺す「生検」をあえて行うのは、前立腺がんには、エコー検査やMRI検査などの画像検査だけでは確定診断が難しい性質があるからです。
「生検」には大きく2種類あります。さらに最近では、より精度が高い診断が可能な、「新たな生検(MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立腺針生検法)」も始まっています。それはどのようなものでしょうか?
なぜ「生検」が必要?
エコー検査やMRI検査などの画像診断で、前立腺がんが疑われても、それだけで確定診断を下すことはできません。なぜなら、前立腺がんと、それ以外の病気(前立腺肥大症や前立腺炎)を区別することが難しいからです。
そこで鑑別診断(病気を絞り込むための診断)をするために「生検」を行います。「生検」によって、前立腺の組織を詳しく検査することで鑑別診断が可能になるのです。
生検は2つの経路から行われる
プローブを直腸に挿入。前立腺を観察しながら、プローブに取り付けられた自動生検装置を使って針を刺す
■ メリット
・麻酔を使わずに検査できる
■ デメリット
・肛門から針を刺すため、直腸内の雑菌が前立腺内に侵入して前立腺炎になるリスクがある
プローブを直腸に挿入。前立腺を観察しながら、会陰部から自動生検装置を使って針を刺す
■ メリット
・会陰部から針を刺すため感染症のリスクがほとんどない
・経直腸では、生検が困難な前立腺腹側の領域の生検が容易。
■ デメリット
・痛みが強いので麻酔が必要。そのため入院が必要になる
「系統的生検」の特徴
上で紹介した 「経直腸」と「経会陰」の2つ種類の生検は、「系統的生検」と呼ばれます。これは、前立腺に対して、一定の間隔で針を刺す方法です。この「系統的生検」には、どのような特徴があるのでしょう?
1.すべての「前立腺がん」が確認できるわけではない
がんがあると疑われる場所ではなく、一定の間隔で針を刺すため、仮に針と針の間にがんがあった場合、見逃されてしまうことになります。
2.がんの存在を確認できた場合でも、その大きさと位置を正確に把握できない
そのため、治療法として手術が選択される場合、前立腺を全部摘出する手術になります。理由は、がんの再発のリスクを、できる限り小さくするためです。
最近では、初期の前立腺がんに対して「フォーカルセラピー(部分治療)」と呼ばれる新たな治療が始まっています。この治療は、現時点では臨床試験の段階にありますが、従来の治療に比べると、治療後に尿漏れや勃起障害が起こるリスクが小さいというメリットがあります。
しかし、前立腺がんの大きさと位置を正確に把握できない従来の「系統的生検」では、この「フォーカルセラピー」を行うことができないのです。
がん検出の精度が高く、位置と大きさも正確に把握できる「新たな生検」とは?
「新たな生検」の特徴は、MRI画像も活用することです。
まず、事前に撮影したMRI画像を分析。前立腺がんが疑われる部分を精密に割り出します。その結果をもとに、がんが疑われる場所を示す3次元画像を作ります。
この3次元画像と超音波画像を融合することで、「がんが疑われる部分」と「針の位置」の両方が画面に表示されます。医師は、これを見ながら検査を進められるので、がんが疑われる部分に、正確に針を刺すことができるのです。
■ メリット
・がんの見逃しが減る
→発見の精度アップ
・がんの大きさと位置を正確に把握できる
→初期の場合はフォーカルセラピーも可能で、尿漏れ、性機能障害のリスクを低減できる
MRI画像にもとづいた「新しい生検」は、従来の生検よりもがんの発見率が高い
PSAの数値が4~20の患者さん250人に、MRI画像にもとづく「新しい生検」と従来の生検の両方を行った実験結果があります(1)。その結果によると、臨床的に意義のある前立腺がん(治療の必要があるがん)が発見された割合は、新しい生検の方が大きいという結果が出ました。
新しい生検 | 55% |
従来の生検 | 25% |
下記の論文を引用
(Shoji S, Hiraiwa S, Ogawa T, et al. Accuracy of real-time magnetic resonance imaging-transrectal ultrasound fusion image-guided transperineal target biopsy with needle tracking with a mechanical position-encoded stepper in detecting significant prostate cancer in biopsy-naïve men. Int J Urol 24: 288-294, 2017.)