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前立腺がん 自分にとってベストな治療法選択のためには?

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前立腺がんの治療を受けた後に、「ほかの治療法もあったのに…」と後悔するのではなく、「これがベストの選択だった」と思える。そのためには何が必要でしょうか?

「お任せします」から理解・納得へ

医師は、前立腺がんのステージ(進行度)リスク分類(悪性度などで決定)、加えて患者さんの体の状態なども考慮して治療プランを提案します。それに対して、患者さんが同意したところで治療がスタートします。

医師から治療プランについて提案があったときに、「先生にお任せします」というスタンスでは、ベストな治療選択はできません。前立腺がんには数多くの治療法があります。その中から、なぜそのプランが選択されたのかを確認して、納得した上で同意することが重要です。そのためには「適応」と「各治療法のメリットとデメリット」の2つについて知っておくとよいでしょう。

場合によっては、医師から複数の治療プランが示されることもあります。その際には、それぞれの治療プランについて「メリットとデメリット」を確認しましょう。それに加えて、ご自身の価値観、考え方、人生プランなども合わせて考慮することでベストな治療選択が可能になります。


前立腺がんワンポイント

医師から話を聞くときのポイント

精密検査が終わると、医師から確定診断の内容と治療プランについて説明があります。その際、どのようなことを心がけるとよいでしょうか?

ポイント1 家族に同席してもらう

治療を進めるには、家族の協力が大切です。そのためには、医師の提案の内容を共有することが重要です。また、同席してもらうことで、一人で話を聞くよりも確実に情報を受け取ることができます。

ポイント2 メモを取る

医師の話を聞いていて、重要だと思った部分はメモを取ると後で確認できます。メモをするのが苦手であれば、ICレコーダーなどを使って医師の話を録音するとよいでしょう。
ただし、医師の中には、ICレコーダーで録音することに拒否感をもつ方もいます。信頼関係を壊さないためにも、「あらかじめ使用することを告げる」などの工夫が必要な場合もあります。

ポイント3 わからないことがあれば質問する

医師でさえ、自分の専門以外の病気の治療法については、わからないことがあるといいます。ですから、理解できないことや疑問に思うことがあるのが当然なのです。ベストな治療選択の第一歩は、医師の提案を理解することです。わからない部分があれば、どんどん質問をしましょう。

 

「適応」のある・なしは、どう決まる?

前立腺がんの各治療法は、すべての患者さんに対して有効ではなく、ある条件に一致した患者さんに対して効果を発揮します。たとえば手術が有効な場合は、「手術の適応がある」と表現されます。

転移がない前立腺がんの場合、監視療法、部分治療(フォーカルセラピー)手術、放射線治療、監視療法、ホルモン療法、化学療法(抗がん剤を使用)が治療法の候補になります。それぞれの治療に関して適応があるかどうかは、「がんの大きさや広がり方」と「リスク分類」だけでなく、患者さんの年齢や体の状態も含めて決まります。

一方、転移がある前立腺がんの場合、手術の適応はなく、ホルモン治療や化学療法が適応になります。また転移部位に対する放射線治療が、痛みを緩和するために行われる場合もあります。

適応のある・なしは「大きさや広がり方」と「リスク分類」で決まる

 

前立腺がんの治療法 メリットとデメリット

    治療期間 メリット デメリット
1 監視療法 該当せず ・ほかの治療とは違って合併症のリスクがゼロである ・前立腺内にがん細胞が残った状態なので、不安やストレスがある
・定期的な通院(3カ月毎)が継続的に必要
2 部分治療(フォーカルセラピー) 1泊2日
~2泊3日
・手術や放射線治療と比べると、尿失禁や性機能障害のリスクが低い(射精や勃起を温存できる場合もある)
・2泊程度の入院で完了する
・尿道カテーテルを陰茎に入れている期間が短い(24時間以内に抜ける場合もある)
・がんが前立腺内にとどまる場合でも、前立腺内に広がって存在している場合は適応ではない
・実施できる施設が限られている
・保険適応でないため費用がかかる
3 手術 約10日 ・高リスク群の場合、放射線治療と比較すると治療10年後の再発率が低い ・高齢者は体への負担が大きいため実施が難しい
・一般的な手術と同様に感染症などの合併症のリスクがある。ほかにも尿失禁と性機能障害のリスクがある
4 放射線治療 約8週間
(外照射)
3泊4日
(小線源療法)
・高齢者でも行うことができる
・手術の後に行うことで再発や転移のリスクを低下できる
・手術に比べると尿失禁が生じにくい
・頻尿、排尿・排便時の痛み、排便時の出血や血尿などのリスクがある
・性機能障害
5 ホルモン療法 手術や放射線治療の術前に使用する場合:1~6カ月間
転移している場合:治療効果がなくなるまで継続が必要
・転移がある前立腺がんにも適応がある
・手術や放射線治療の前に行うことで、がんのサイズを縮小させ、その後の治療を行いやすくする
・のぼせ、ほてり、急な発汗、性機能障害(勃起障害)、乳房が大きくなる、骨密度の低下などのリスクがある
・前立腺癌はホルモン療法で完治はしない。このため、必ず治療効果がなくなる時期がある(時期は個人差あり)

リスク分類の基準

低リスク ステージT1~T2a、グリソンスコア6以下、PSA値10ng/mL未満
中間リスク ステージT2b~T2c、グリソンスコア7、または PSA値10~20ng/mL
高リスク ステージT3a、グリソンスコア8~10、または PSA値20ng/mL以上

 

次ページ:前立腺がん、それぞれの治療法の特徴について

前立腺がん、それぞれの治療法には
どんな特徴があるの?

1.監視療法

経過観察を行うだけなので、手術や放射線治療のような合併症のリスクがありません。適応があるのは前立腺がんのサイズが小さく悪性度が低い場合で、PSA値が10ng/mL以下、ステージがT2以下、グリソンスコアが6以下の場合です。

監視療法では、3~6カ月ごとにPSA検査と直腸診、さらに1~3年ごと、あるいはPSA値が上昇した場合に前立腺生検を行います。その結果、病状の悪化が認められた場合、ほかの治療の開始を検討します。

 

2.部分治療(フォーカルセラピー)

前立腺がんがある部分だけを治療します。正常組織を可能な限り残すことで合併症のリスクを低減できます。適応があるのは、前立腺内にとどまり、かつ広がっていない前立腺がんです。治療法には高密度焦点超音波療法(HIFU)、凍結療法、小線源療法などがあります。新しい治療法であるため、実施できる施設は現在のところ少ない状態です。

 

3.手術

基本は、前立腺全摘除術(前立腺をすべて摘出する)で行われます。まず前立腺と精のうを摘出して、その後、膀胱と尿道をつなぎます。適応があるのは、がんが前立腺内にとどまっている場合と、前立腺の被膜を越えて広がっている場合です。手術には開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術の3種類があります。

 
[手術の種類]

 
1)開腹手術
腹部を切開して前立腺を摘出します。
 

 

2)腹腔鏡手術
腹部に小さな穴を数カ所開け、炭酸ガスで腹部をふくらませます。その後、穴からカメラや器具を挿入して前立腺を摘出します。開腹手術に比べると出血量が少なく創が小さいため、体への負担が少なく合併症からの回復が早いとされています。
 

 

3)ロボット手術
下腹部に小さな穴を数カ所開け、精密なカメラや鉗子が装着された手術用ロボットを遠隔操作して前立腺を摘出します。手術する部分を画面で拡大できるので、精密な手術が可能です。開腹手術に比べると創が小さく、腹腔鏡手術と同等に回復が早いとされています。
 
[ 合併症 ]

 
1)尿失禁
尿の排出は、尿道括約筋によってコントロールされています。手術時に尿道括約筋が傷つくと尿道の締まりが不十分になり、尿が漏れることがあります。手術時には、可能な限り尿道括約筋を温存しますが、尿漏れをゼロにするのは難しいというのが現状です。
尿失禁は、手術後数カ月ほど続き約半年で生活に支障ない程度に回復しますが、完全に回復しない場合もあります。
 

 

2)性機能障害
前立腺の周りには勃起神経が張り巡らされています。そのため手術によって前立腺を摘出すると、神経を温存した場合でも、ほとんどのケースで勃起障害が起こります。
現在、勃起を回復させるために薬物(バイアグラ®など)などを用いたリハビリが試みられていますが、効果には個人差があります。これは、勃起神経の温存の程度や、年齢や術前の勃起能力が影響すると考えられています。
 

 

 

4.放射線治療

X線や電子線を照射することで、がん細胞のDNAを傷つけ増殖を抑えます。X線を使った治療には「外照射療法」と「組織内照射療法」があります。

 

 

1)外照射療法

 
体の外から放射線を照射する方法で、以下のような種類があります。
 

 

①三次元原体照射治療(3D-CRT):装置を回転させて様々な方向から放射線を照射することで、狙った場所に一定量の放射線を照射します。一方、正常組織や周囲の臓器(直腸や膀胱)に照射される放射線量は低減できます。治療期間は8週間程度(平日は毎日照射)です。
 

 

②強度変調放射線治療(IMRT):放射線を照射する範囲を調整できる装置を使い、多方向から照射を行います。三次元原体照射治療よりも、がんの形に合わせた精密な照射が可能です。治療期間は8週間程度(平日は毎日照射)です。
 

 

③定位放射線治療:照射精度が高い装置を使用して、ピンポイントで照射します。定位放射線治療にはいくつかの種類がありますが、前立腺がんの場合「サイバーナイフ」という方法が使われます。治療期間は2週間程度(1日おきに合計5回程度の照射)で、「3D-CRT」や「IMRT」よりも短期間で終了します。
 

 

④粒子線治療(陽子線、重粒子線):X線を体に当てた場合、体の表面近くで線量が最大になります。一方粒子線には、からだの深い部分で線量が最大になるように調節できるという性質があります。これを利用することで、正常組織に対するダメージを減らせます。現時点では、実施できる施設が限られています。
 

 

[ 合併症 ]

 
急性期(治療後3カ月以内)には、頻尿、排尿・排便時の痛みなどが起こります。それ以降は排便時の出血や血尿などがあります。ごくまれに、症状がおさまるまでに数年かかる場合もあります。
 

 

 
2)組織内照射療法(密封小線源療法)

 
放射線物質を密封した小型の容器を前立腺の中に入れ、体内から放射線を照射します。放射線物質から距離が離れると、到達する放射線のエネルギーが急激に減少するという性質があります。そのため、がん細胞がある部分には強い放射線を照射、ほかの部分に当たる放射線量は少なくできます。
前立腺肥大症で前立腺を削り取る手術を受けた人は適応がありません。また、前立腺が大きすぎる場合にも適応にならない場合があります。その場合、最初にホルモン療法を行い、前立腺のサイズを小さくしてから治療を開始することがあります。
組織内照射療法には、永久的に放射性物質を埋め込む「密封小線源永久挿入療法」と、一時的に埋め込む「高線量率組織内照射法」があります。
 
①密封小線源永久挿入療法:超音波で前立腺の位置を確認しながら、会陰(陰のうと肛門の間)から前立腺に線源(放射性物質が入った小型の容器)を埋め込みます。治療は半日で終了しますが、その後、1泊の入院が必要です。埋め込まれた放射性物質は、次第に放射線を放射する能力が低下、約半年で効力を失います。その後も微量の放射線が放出されますが、周囲の人にはほとんど影響はありません。
 
②高線量率組織内照射法:前立腺に管状の針を刺した後、管の中に線源を挿入することで放射線を照射します。治療が終わったら針を抜きます。数回に分けて治療することが多く、針が刺さっている間は安静が必要です。
 

 

[ 合併症 ]

 
外照射療法に比べると、排尿に関する症状が多くなります。急性期(治療後3カ月以内)は、排尿困難や頻尿が起こります。その後1年ほどの間で、排尿の副作用は少なくなります。尿失禁は、ほとんどの場合起こりません。また、外照射療法に比べて性機能が維持される割合が高いという特徴があります。
 

 

 

5.ホルモン療法(内分泌療法)

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌される男性ホルモン(アンドロゲン)によって病気が進行する性質があります。そこで、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬を投与することで前立腺がんの勢いを抑えるのが「ホルモン療法」です。適応になるのは、手術や放射線治療を行うことが難しい場合、放射線治療の前後、前立腺がんがほかの臓器に転移した場合などです。

 
[ 副作用 ]

 
治療によって男性ホルモン(アンドロゲン)が少なくなり、男性の体内にもともと存在している女性ホルモンが相対的に多くなります。そのため、乳房が大きくなる、乳頭に痛みを感じるなどの症状が出ることがあります。ほかにも性機能障害(勃起障害や性欲の低下)、骨密度の低下による骨折のリスクの増加などがあります。また、ホルモンのバランスが崩れるため、ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり、急な発汗)などの症状も現れます。
 
 

 

6.化学療法

転移がある前立腺がんで、内分泌療法の効果がなくなったときに行うのが一般的です。また、進行性の状態にあると判断された場合には、早期から抗がん剤治療が行われる場合もあります。薬(抗がん剤)を投与して、がん細胞を消滅させる、または縮小させることを目指します。

 
監修医師

小路 直 Sunao Shoji

東海大学医学部外科学系泌尿器科学
専門分野:泌尿器悪性腫瘍, 前立腺肥大症

専門医・認定医:
日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医(泌尿器腹腔鏡)、 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、ダビンチロボットサージカルシステムXi Certificate.

*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。