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前立腺がん|重粒子線治療と陽子線治療の違い

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前立腺がんの「粒子線治療」は陽子線、重粒子線とも2018年から保険適用となり、費用面での負担が少なくなって治療を受けやすくなりました。

粒子線治療は、放射線治療の一種であり陽子線と重粒子線(炭素イオン線)が臨床的に使用されています。特に中期から進行期の前立腺がんでは、粒子線治療は手術療法よりも治療効果が高いという解析結果もあります。また、手術療法と比べると全身麻酔も不要ですし、メスを入れることもないため体に優しいという特徴もあります。

勃起障害や排尿障害などの副作用も、手術と比べると低い傾向が示されています。ただし、放射線被ばくによる副作用として、ごくまれに別の場所にがんが発生する二次発がんを来すことがあります。二次発がんは10~20年後に発症する性質があるので、特に60歳代以前の前立腺がんの患者さんの場合、X線による放射線治療も粒子線治療も二次発がんのリスクを考慮する必要があります。

「粒子線治療」のメリットとデメリット

メリット


1.手術療法との比較

・性機能障害や排尿障害のリスクが低い

・手術のような侵襲がない

・中期または進行期の前立腺がんでは、手術療法よりも治療成績がよいという解析結果がある

2.IMRT(強度変調放射線治療)との比較

・周辺臓器に照射されてしまう放射線量を減らせるため、副作用が少ない(特に直腸と膀胱への照射線量を減らせるため、直腸出血や血尿などのリスクが少ない)

デメリット


1.手術療法との比較

・放射線障害が起こるリスクがある

2.IMRT(強度変調放射線治療)との比較

・デメリットは特になし

放射線障害とは?

急性期(治療後3カ月以内)には、頻尿、排尿・排便時の痛みなどが起こります。それ以降は排便時の出血や血尿などがあり、ごくまれに症状がおさまるまでに数年かかる場合もあります。また、ごくまれに二次発がんが発症することがあります。

前立腺がんの「粒子線治療」 治療を受けられる条件とは?

・遠隔転移がない(ステージ1~ステージ3)

・これまでに前立腺がんの放射線治療を受けたことがない

・照射する場所に治療が必要な炎症がない

・治療中、安静が保てる(30分程度)

・がんの告知を受け、患者さん自身が粒子線治療を希望している

そのほかに「粒子線治療」のみを行う施設で治療を受ける場合は、以下の条件が追加されます

・主治医からの紹介がある

・粒子線治療後、主治医が経過観察を行うことについて、主治医からの同意が得られている

「陽子線治療」と「重粒子線治療」 前立腺がんの治療成績には差があるの?

粒子線治療には、「陽子線治療」「重粒子線治療」の2種類があります。「重粒子線治療」の方が狙った範囲によりピンポイントに照射照射できます。
ただし、「陽子線治療」と「重粒子線治療」の治療成績に違いは報告されていません。

粒子線の種類「陽子線」と「重粒子線」とは?

「陽子線治療」はイオンの一種である「陽子線」を使った治療です。一方「重粒子線治療」では「重粒子線(炭素イオン線)」が使われます。
前立腺がんの治療に使われる粒子線は、高いエネルギーをもったイオンの流れです。イオンには様々な種類がありますが、現在治療に使われているのは「水素イオン」「炭素イオン」です。水素イオンは原子核の構成要素である「陽子」だけでできているので、水素原子核の流れを「陽子線」と呼びます。一方、重粒子線にはいくつも種類がありますが、現在、治療に使用されているのは「炭素イオン線」のみですので、一般的には「炭素イオン線」が「重粒子線」と呼ばれています。

治療に使われる粒子線(イオン)には2種類ある


水素イオン=陽子線

炭素イオン=重粒子線

「粒子線」は、なぜ、がんの治療に使われるの?

粒子線治療に使われる粒子線は、放射線の一種です。放射線には「電離作用」があります。この「電離作用」によってがん細胞のDNAを破壊できるので、放射線はがん治療に利用されているのです。

「電離作用」とは?

放射線が体内を通過したとき、その周りにある組織を構成する原子にエネルギーを与えます。そのエネルギーによって、原子内の電子がはじき出されます。この働きが「電離作用」です。
がん細胞の遺伝子内にある原子に電離作用が働くとDNAが破壊される。これを「直接作用」と呼びます。また、電離作用が体内の水分に働くと「フリーラジカル」が発生。この物質もがん細胞のDNAを破壊します。これを「間接作用」と呼びます。

「粒子線治療」は 従来の放射線治療「IMRT」よりも、メリハリがある照射が可能!

IMRTは、それ以前の放射線治療と比べると前立腺の周辺臓器に照射される放射線量を減らせるという特徴があります。しかし、そのIMRTと「粒子線治療(陽子線治療や重粒子線治療)」を比較すると、「粒子線治療」の方が、周辺臓器に照射される放射線の量(特に低い放射線量被爆)が少ないのです。その分だけ、副作用が起こるリスクも小さくなります。

そのことを示したのが下の写真です。写真は、前立腺がんの放射線治療を行った場合、前立腺とその周辺に照射される線量の分布を示しています。赤やオレンジは線量が多い、青や紫は線量が少ないことを表しています。

粒子線治療(陽子線治療や重粒子線治療)と 従来の放射線治療IMRTの放射線の量の比較

前立腺がんの放射線治療では、前立腺全体に放射線を照射します。その一方で、副作用を最低限に抑えるためには、前立腺の周辺に照射される放射線はできるだけ少なくする必要があります。言い換えると「メリハリがある照射」が必要だということです。粒子線治療はIMRTと比べると、より「メリハリがある照射」が可能なのです。

粒子線治療 「メリハリがある照射」が可能な理由

粒子線とX線を比較すると、皮膚に入った後、周辺の組織に与えるダメージに違いがあります。

X線の場合、皮膚の表面から2~3センチのところで与えるダメージが最大になり、その後はゆるやかに減少していきます。

一方、粒子線(陽子線・重粒子線)の場合、皮膚からある深さの場所で与えるダメージが最大になり、その後は急激に小さくなります。この深さは粒子線のエネルギーを変化させることでコントロールすることができます。このような違いがあるため、粒子線はX線よりも「メリハリがある照射」が可能なのです。

粒子線とX線を比較した時の周辺の組織に与えるダメージの違いグラフ

「粒子線治療」はどこで受けられるの?

現在、「陽子線治療」と「重粒子線治療」を受けられる施設は以下の通りです。

粒子線治療に使われる 「粒子線治療装置」とは?

粒子線治療では、患者さんの体内の深い部分まで粒子を到達させる必要があります。それを可能にするのが「粒子線治療装置」です。この装置の役割は、粒子を加速して非常に速いスピードにしてから、前立腺がんのある位置に正確に照射することです。照射時の粒子の速度は、なんと光速の約70%に達します。

「粒子線治療装置」は、次の4つの部分で構成されています。

1.入射系 イオンを生成し予備加速する
2.シンクロトロン予備加速されたイオンをさらに加速。光速の約70%にする
3.輸送系必要な速度まで加速されたイオンを照射室まで運ぶ
4.照射系イオンを患者さんに正確に照射する
兵庫県立粒子線医療センターの模型で示した粒子線治療装置の構成

写真は、兵庫県立粒子線医療センターの模型を撮影したもの

1.入射系

粒子線治療装置の入射系の水素イオン(水素原子核)を生成する装置

水素イオン(水素原子核)を生成する装置

粒子線治療装置の入射系の粒子が加速される装置

生成された粒子は装置内を通り加速される

2.シンクロトロン

粒子線治療装置のシンクロトロン01

粒子は管の中を円運動する。約100万回転する間に粒子は加速され、光速の約70%に到達したところで取り出される
シンクロトロン内に設置されているこの装置で粒子が加速される

3.輸送系

粒子線治療装置の輸送系

光速の約70%に加速された粒子はシンクロトロンから取り出され照射室へ運ばれる
取り出された粒子の一部は、水平垂直照射室の上部まで運ばれる

4.照射系(ガントリー室)

ガントリー室では、360度、どの角度からでも粒子を照射できる。

粒子線治療装置の照射系(ガントリー室)
粒子線治療装置の照射系(ガントリー室)の回転

実施の照射では、離れた場所から操作する

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