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化学療法、ホルモン療法、分子標的療法 乳がんの薬物療法の使い分け

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薬物療法には、「化学療法」「ホルモン療法」「分子標的療法」の3種類があります。どれを選択するかは、乳がんの性質を示す「サブタイプ」で決まります。納得した上で薬物療法を受けるには「サブタイプ」を確認することが大切になります。

「サブタイプ」を確認することが大切な理由はもうひとつあります。薬物療法には「がん細胞を叩く」というメリットだけでなく、「副作用」というデメリットもあるからです。副作用は、薬物療法の種類によって異なります。そして薬物療法の種類は「サブタイプ」で決まります。

薬物療法は、手術療法とセットで行われることが多いため、「なぜ手術だけでなく薬物療法も行うの?」と疑問に思うことがあるかもしれません。この疑問を解消した上で薬物療法を受けるためにも、薬物療法を行う理由について確認しておきましょう。

乳がんの薬物療法は「サブタイプ」で決まる

「サブタイプ」は、乳がんの性質を基準にして5つに分類したものです。それぞれの分類ごとに、3種類ある薬物療法のどれを選択すればよいかが決まっています。

「サブタイプ」を決める基準

ホルモン受容体
ホルモン受容体とは、ホルモンを受け取る部分の名称。乳がんのサブタイプを決める際には、2種類の女性ホルモン「エストロゲン」と「プロゲステロン」の受容体の有無が検査される。
→受容体がある場合「陽性」、ない場合「陰性」

HER2
がん細胞の増殖に関係するタンパク。
→HER2やHER2遺伝子(HER2を作る働きがある)が過剰にある場合「陽性」、そうでない場合は「陰性」

Ki67
増殖する細胞の核に存在するタンパクで、量が多いほどがん細胞の増殖能力が高い。
→Ki67の量が基準になっている

組織学的グレード分類
がん細胞の顔つきの悪さの程度を示す指標で、3つのグレードに分類されている。グレード1の乳がんは予後良好、グレード2は中間、グレード3の乳がんは予後不良となっている。

木下貴之・田村研治監修「国立がん研究センターの乳がんの本」小学館クリエイティブより一部改変

乳がんの化学療法

化学療法とは、『抗がん剤』を点滴や内服薬によってがん細胞の増殖を抑える方法です。がん細胞は通常の細胞と異なり増殖し続けますが、抗がん剤はがん細胞の分裂を防ぎ、死滅させることによって治療の効果が得られます。

副作用:白血球など血液成分の減少、発熱、吐き気、脱毛など。

乳がんの内分泌療法

女性ホルモン『エストロゲン』の刺激によって増殖する乳がんに対して、乳がん細胞にエストロゲンを与えないために、内分泌療法を用います。内分泌療法はエストロゲンとホルモン受容体との結合を防ぐことによって治療の効果が得られます。

副作用:長期間使用すると子宮がん、血栓症、骨粗しょう症のリスクが高くなる。ホットフラッシュ(ほてり症状)。

分子標的療法

乳がんが増殖する原因となる分子(物質)を標的にした治療を分子標的療法といいます。現在、非常に多くの分子標的薬が開発中です。例えば、「乳がんのがん細胞を増殖させる物質を阻害する(抗HER2療法)」「がん細胞に栄養を与える血管増加に関与する物質を抑える(血管新生阻害剤)」ことなどによって、治療の効果が得られます。

副作用:抗がん剤のような全身に現れる副作用がない薬剤が多いが、重篤な副作用も報告されている。

化学療法、内分泌療法、分子標的療法の使い分けは、乳がんのタイプによって異なる

化学療法とホルモン療法、分子標的療法のうちどの治療法を選択するかは、乳がんのタイプやがんの進行度によって変わってきます。

ルミナルタイプ

女性ホルモン『エストロゲン』の刺激によって増殖するルミナルタイプの乳がんでは、内分泌療法が治療の主役となります。乳がん診断時にリンパ節への転移がみられる場合や、内分泌療法に抵抗性を持つ転移・再発乳がんには化学療法も選択することがあります。近年、CDK4/6阻害剤という分子標的薬が、ルミナルタイプの乳がんの進行を抑制することが判明し、転移・再発乳がんに対して用いられています。

HER2タイプ

がんの細胞表面にHER2蛋白を有する乳がんは、再発リスクが高いことが知られていましたが、2000年のはじめに分子標的薬である抗HER2薬が登場したことによって劇的に予後が改善しました。化学療法と抗HER2薬の併用療法や新しいタイプの抗HER2薬を用いて、治療をおこなっていきます。

トリプルネガティブタイプ

女性ホルモンやHER2が関与しない乳がんをトリプルネガティブ乳がんといいます。抗がん剤を使った化学療法が治療のメインとなりますが、近年では免疫療法(例:アテゾリズマブ)やPARP阻害剤(オラパリブ)などの新しい分子標的薬の効果があることが臨床試験で明らかになり保険で利用できるようになりました。現在でも多くの分子標的薬が開発中で、臨床試験でその効果を検討されています。

2種類の薬物療法 それぞれの目的とは?

薬物療法は、手術前に行われる場合と手術後に行われる場合があります。それぞれ、どのような目的で行われるのでしょうか?

①術前薬物療法(手術前に行う薬物療法)

・全身に飛び散ったがん細胞によって発生した、画像診断では発見できないほど小さな転移(微小転移)をたたく
・手術が困難な進行がんのサイズを縮小させて、手術ができるようにする
・乳房部分切除が適応にならないがんを縮小させて、乳房部分切除を可能にする

②術後薬物療法(手術後に行う薬物療法)

・微小転移をたたき、再発、転移のリスクを小さくする。「術前薬物療法」とは違い、手術で切除したがん細胞の性質を詳しく調べることができるので、より適切な薬剤を使うことができる。

抗がん剤 副作用との付き合い方

抗がん剤は、化学療法で使用される薬剤です。抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも影響を与えるため副作用が現れます。具体的には、赤血球や白血球の減少、吐き気、脱毛などです。

最近では、副作用を減らすため、投薬方法を工夫したり、副作用を低減する効果がある薬を投薬したりする方法がとられています。ただし、副作用の現れ方には個人差があるため、強く出てしまう場合があります。副作用が強い場合にはがまんせず、医師や看護師、薬剤師に相談しましょう。

脱毛のつらさを低減できるウィッグ

抗がん剤の副作用の一つである脱毛は、特に女性にとって精神的に大きな負担となります。それを少しでも軽くするために活用できるのがウィッグです。費用は自費負担となってしまいますが、一部の自治体では、がんの患者さんがウィッグを購入した場合、助成金や補助金が出る場合があります。

脱毛を防止する新しい治療が始まる

抗がん剤を投与する際に、医療機器を使って頭皮を冷やすことで、毛髪をつくる細胞が抗がん剤の影響を受けにくくするという治療です。2019年7月以降、国内の医療機関で使用が開始します。ただ、機器はアジア人用に改良してあることと、治療に時間と手間がかかるため、本機器の使用に際してはその効果も含めて主治医の先生によく相談してください。

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