肺がんのロボット支援手術は、2018年の4月から保険適用になりました。
ロボット支援手術では、手術用ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」を使用します。ロボットと聞くと、「医師の代わりに手術を行う」と思われる方もいるかもしれません。しかし実際は、ダヴィンチは、医師が操作することで動作するロボットです。まさに医師を支援する役割を果たすのです。
ダヴィンチが「支援」するのは「開胸手術」ではなく「胸腔鏡手術」です。「胸腔鏡手術」で使用する鉗子はロボットアームの先にセットされています。アームには手ぶれがなく、人の手より正確に動きます。また、アームには関節がついているので器具の可動域が大きくなっています。その結果、医師が自分の手で操作する「胸腔鏡手術」では行うことが難しかった手術も、「ロボット支援手術」によって可能になったのです。
ダヴィンチとは、どんな装置?
「胸腔鏡手術」を支援するダヴィンチは、3つの装置で構成されています 。
1)サージョンコンソール
医師が着席してロボットアームを操作する。
2)ペイシャントカート
医師が操作したとおりにロボットアームが動く。ロボットアームの先には、カメラや手術に使用する道具(鉗子など)が装着されている。
3)ビジョンカート
モニターに、医師が「サージョンコンソール」で見ているのと同じ映像が出力される。スタッフは、医師と同じ画像を共有できる。
なぜ、ダヴィンチは自由度が高い手術が可能なのか?
従来の「胸腔鏡手術」で使われる鉗子は、細長い棒状の器具です。そのため胸腔内で鉗子の先を動かす場合、動かせる範囲には制限がありました。一方、ダヴィンチのロボットアームに取り付けられる鉗子には関節がついているので、角度を変えたり、回転させたりすることができます。そのため、狭い胸腔内でも、これまでよりも自由な方向や角度から手術を行えるようになったのです。
ダヴィンチの性能は向上している
ダヴィンチは、アメリカのインテュイティブサージカル(Intuitive Surgical)社が開発した内視鏡手術を支援するためのロボットです。
現在日本で使用されているダヴィンチには、SタイプとXタイプがあります。このうち最新型はXタイプで、Sタイプに比べるとロボットアームがスリムになるなどの改良が加えられ、より自由度が高い手術が可能です。また特殊なカメラ(蛍光カメラ)が装備されたため、リンパ節郭清(リンパ節を取り除く手術)の精度を上げることが可能になりました。
適応と病院の選び方
ダヴィンチが適応となるのは、「肺葉切除術」と「肺区域切除術」です。「肺部分切除術」は適応ではありません。ダヴィンチは、従来の胸腔鏡手術と比べると精密な手術を確実に行うことが可能です。そのため、肺葉切除術のときに行われるリンパ節郭清(リンパ節を切除する)を確実に行えるようになります。
実際に手術を受ける際、病院を選ぶときには以下の点を確認するとよいでしょう。
1)十分な情報提供がある
肺がんのロボット支援手術が保険適用になったのは2018年4月です。まだ発展途上の手法であるため、安全に手術を行うためにどのような体制をとっているかなど、十分な情報提供がある病院を選ぶことが重要です。
2)胸腔鏡手術の技術的蓄積が重要
どの程度の件数を経験しているのかについて確認しましょう。
ロボット支援手術 入院後のスケジュール
医療機関によって差がありますが、一例を見てみましょう。
「ロボット支援手術」の場合、術後の痛みも少なく、翌日には歩行が可能です。ただし胸に残したドレーンを抜くのは手術の翌日以降になるため、入院期間は7~8日ほど必要です。
手術用ロボットは今後、どのように進化していくか
1)機能の充実
今後、シミュレーション機能や評価機能が付加される可能性があります。シミュレーション機能は、パイロットが訓練用に使うフライトシミュレーターのように、トラブル時の対応を学ぶためのものです。評価機能は、医師の操作の内容を解析して評価する機能です。2つの機能が実現すれば医師の操作技術が向上して、ロボット支援手術の質がさらに向上することが期待できます。
2)ロボットの種類が増える
ダヴィンチは、アメリカの会社が開発した手術用ロボットですが、現在、国産の手術ロボットの開発も進んでいます。さらに今後は、手術用ロボットの種類が増えていくことが予測されます。同時に、胸部用、腹部用といったように用途別のロボットが開発され、より高度な手術ができるようになる可能性があります。
監修医師
小島 史嗣 Fumitsugu Kojima
聖路加国際病院
専門分野:呼吸器外科
専門医・認定医:
日本外科学会 専門医、日本呼吸器外科学会 専門医・認定ロボット手術プロクター、日本がん治療学会 認定医
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。
後藤 悌 Yasushi Goto
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
専門分野:臨床腫瘍学
専門医・認定医:
日本内科学会認定内科医 総合内科専門医 指導医、日本臨床腫瘍学会 がん薬物療法専門医 指導医、日本がん治療認定機構 がん治療認定医、日本呼吸器学会 呼吸器専門医 指導医
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。