男性だけに発症する前立腺がん。その罹患数は、約30年間で8.4倍に増えています。
さらに2017年のデータによると、男性のがんの男性のがんの第2位(1)になっています。
前立腺がんは、前立腺肥大とは別の病気です。また、いろいろなタイプがあって、進行のスピードが速い場合もあります。
(1)国立がん研究センター「日本のがん罹患数・率の全国値公表(2015 年集計)」
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0117/index.html
山形・福井・長崎各県の地域がん登録のデータを元に制作
Katanoda K, Sobue T, Tanaka H, Miyashiro I (eds.). 2016. JACR Monograph Supplement No. 2. Tokyo: Japanese Association of Cancer Registries.
全がんの罹患数は2倍に増えています。一方、前立腺がんは約8.4倍で、増加の割合が高いことがわかります。
山形・福井・長崎各県の地域がん登録のデータを元に制作
Katanoda K, Sobue T, Tanaka H, Miyashiro I (eds.). 2016. JACR Monograph Supplement No. 2. Tokyo: Japanese Association of Cancer Registries.
山形・福井・長崎各県の地域がん登録のデータを元に制作
Katanoda K, Sobue T, Tanaka H, Miyashiro I (eds.). 2016. JACR Monograph Supplement No. 2. Tokyo: Japanese Association of Cancer Registries.
5大がん(胃がん、大腸がん、肺がん、肝がん、乳がん)のうち、男性が罹患する4つのがんと前立腺がんの罹患数の経年変化をみると、2012年には前立腺がんの罹患数は3位になっています。
1985年と2012年のデータと比較すると、前立腺がんは8.4倍に増えています。ほかのがんの増加率と比べると、その数値が突出していることがわかります。
前立腺がん | 8.4倍 |
大腸がん | 2.7倍 |
肺がん | 2.3倍 |
胃がん | 1.2倍 |
肝臓がん | 1.2倍 |
前立腺がんが増えているのはなぜ?
1. 高齢化
前立腺がんの罹患数のデータを年齢別にみると、50歳以降で急激に増えています。その上、日本では高齢化が進み高齢者の割合が増えているので、前立腺がんの罹患数も増加しているのです。
2. 前立腺がん検診の普及
前立腺がんの検診は、2000年には全国の14.7%の自治体で実施されていましたが、2015年には83.0%と実施率が増えています。その結果、早期に前立腺がんが見つかる人が増えたのです。
前立腺がんの検診ではPSA検査が行われます。PSA検査は血液を調べる検査で、前立腺がんの可能性があるかどうかをスクリーニング(ふるい分け)できます。
3. 生活習慣の欧米化
前立腺がんの罹患率は民族や地域によって大きな差があり、特に欧米人の罹患率は、アジア人の約10倍であることがわかっています。
ところが、「アメリカに移住した日本人」の前立腺がんの罹患率は、「日本に住む日本人」と「アメリカに住むアメリカ人」の中間になることがわかっています。つまり、食生活などの生活習慣の欧米化が、日本における罹患率を高めている可能性があるのです。
前立腺って、どんな臓器?
1. 大きさは?どこにある?
前立腺があるのは男性だけです。大きさはくるみの実ぐらいで、膀胱から出る尿道を取り囲んでいる臓器です。前立腺の表面には「勃起神経」が走っています。勃起神経は、その名の通り勃起をコントロールしている神経です。
前立腺がんの患者さんのMRI画像から3Dデータを制作。
それをもとに3Dプリンターで出力した前立腺のモデル
2. その役割は?
前立腺の役割は、前立腺液を分泌することです。前立腺液は精液を構成する成分で、色は白色です。そのため精液は白く見えるのです。前立腺液は精子に栄養を与える役割を果たしていることから、前立腺は生殖機能を支える臓器であると言えます。
前立腺がんワンポイント 01
精子のエネルギー源は、前立腺液に含まれるクエン酸
精子が卵子に向かって進んでいけるのは、鞭毛を動かすことで推進力を得ているからです。では、鞭毛を動かすエネルギーはどこから供給されているのでしょうか?
それは、中部にあるミトコンドリアです。ミトコンドリアには、クエン酸を使ってエネルギー生み出す働きがあります。このクエン酸を供給しているのが前立腺液なのです。前立腺液にはクエン酸が含まれています。精子はそのクエン酸を使ってエネルギーを生み出し、卵子に向かって進んでいくのです。
前立腺がんの特徴
1.成長の速度は、前立腺がんのタイプによって異なる
前立腺がんは「進行が遅い」と説明されることがあります。たしかに、遅いタイプの前立腺がんも一部ありますが、その一方で、成長速度が速く、転移するリスクが高いタイプもあるので注意が必要です。
2.30代、40代で見つかる人も増えている
データによると、前立腺がんの罹患数は50歳以降で多くなっています。しかし、健康意識の高まりとともに若い世代でもPSA検査を受ける人が増えていることもあり、30代、40代で前立腺がんが見つかる人の数も少しずつ増えています。
3.ホルモンの影響を受けて成長する
前立腺がんは、男性ホルモンの刺激で病気が進行する性質があります。これを利用したのが「ホルモン療法」です。男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬を使用することで、前立腺がんの勢いを抑えます。
「前立腺がん」と「前立腺肥大症」は異なる病気
前立腺肥大症は、内腺に良性の腫瘍ができる病気です。内腺は尿道のすぐ周りに存在しているため、大きくなると尿道が圧迫されやすく、排尿障害の原因になりやすいことが知られています。
一方、前立腺がんは、主に外腺に悪性腫瘍ができる病気です。外腺は尿道から離れた場所にあるため、初期の段階では、排尿障害などの自覚症状がない場合がほとんどです。しかし進行すると、排尿障害や血尿などの自覚症状が現れます。
症状
初期では自覚症状がないことが多い。進行すると排尿障害などが現れる。さらに進行すると骨に転移して強い痛みを感じるようになる
症状
尿道が圧迫されるため、排尿障害が現れる
前立腺がんワンポイント 02
「前立腺肥大症」は「前立腺がん」の原因ではない
前立腺肥大症と前立腺がんは、病気になるメカニズムが違います。そのため、前立腺肥大症になったからといって、前立腺がんのリスクが高まるわけではありません。
同様に、「私は、前立腺肥大症ではないから、前立腺がんにはならない」という考え方も間違っています。
監修医師
小路 直 Sunao Shoji
東海大学医学部外科学系泌尿器科学
専門分野:泌尿器悪性腫瘍, 前立腺肥大症
専門医・認定医:
日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医(泌尿器腹腔鏡)、 日本がん治療認定医機構がん治療認定医、ダビンチロボットサージカルシステムXi Certificate.
*本監修は、医学的な内容を対象としています。サイト内に掲載されている患者の悩みなどは含まれていません。