「放射線外部照射療法」は、名前の通り放射線を体外から照射して前立腺がんを治療する方法です。そのため、手術のように体にメスを入れる必要がありません。
放射線には、がん細胞のDNAにダメージを与え、増殖を止める力があります。しかし、前立腺の周りにある臓器(直腸・膀胱など)に当たると、同様にダメージも与えてしまうという問題があります。
この問題を解決するために、最初に開発されたのが「3次元原体照射」です。その後、さらに周りの臓器へのダメージを低減することを目指して開発されたのが「IMRT(強度変調放射線治療)」です。
「3次元原体照射」と「IMRT(強度変調放射線治療)」の違い
3次元原体照射
前立腺の形に合わせて
様々な方向から照射する
直腸にも放射線が当たっている
IMRT
前立腺の形に合わせるだけでなく、その形の中で強弱をつけて照射する
周りの臓器に当たる放射線は少ない
前立腺がんワンポイント 01
入念な準備が必要なIMRT
その理由とは?
IMRTは、前立腺の周りの臓器に照射される放射線量を最低限に抑えられます。その理由は、放射線の強度の分布を自由に設定できるからです。ただし自由度が高くなった分、照射法のパターンも爆発的に増えました。
大量にある照射法の中から、患者さんにとって最適な治療計画を選ぶために使用されているのがコンピュータです。コンピュータは、何千・何万通りの照射法の中から最適な方法を算出します。この作業を行うためには、どうしても時間が必要なのです。
治療計画が決定したら、次にテストを行います。目的は、安全に治療を行えるかを確認することです。そのために、テスト環境の中で治療計画通りに放射線を照射、シミュレーション通りに放射線が当たっているかを確認します。このテストを実施するためにも、時間が必要になります。
前立腺がんワンポイント 02
IMRTは
コンピュータの力に支えられている
IMRTの治療計画を立てるためには、コンピュータによる計算が不可欠です。それに加えて、計画通りに正確に放射線を照射するためにも、コンピュータが活用されています。
放射線の強度は「マルチリーフコリメータ」と呼ばれる装置によってコントロールされていますが、この装置を制御するのもコンピュータなのです。
マルチリーフコリメータは、数ミリの幅の放射線遮蔽金属板で構成されています。金属板は独立して動くので、前立腺の形に合わせて放射線を照射できます。
それに加えて、照射と同時に金属板を動かすことで、前立腺の形の中で放射線の強度を変化させる。これがIMRTです。コンピュータは、金属板の動きをコントロールするという重要な役割を果たしているのです。
「放射線外照射療法」のメリットとデメリット
メリット
・手術のような侵襲がない
・手術が不要(小線源療法ではカプセルを埋め込むための手術が必要)
デメリット
・放射線障害が起こるリスクがある
・時間がかかる
小線源療法は1回の治療で終了します。一方、外照射の場合、週5回の治療で約2カ月かかります。
「放射線外照射療法」の合併症
頻尿、排尿障害、血尿、直腸出血、勃起障害などが起こる場合もあります。これらの症状は半年ほどで改善することがほとんどですが、1年以上継続する場合もあります。
前立腺がんワンポイント 03
なぜ、放射線でがんを治療できるの?
放射線が、がん細胞のDNAに当たるとDNAが破壊されます。これを「直接作用」と呼びます。それとは別に、放射線が水分子に当たると、フリーラジカルと呼ばれる物質が発生します。このフリーラジカルにも、がん細胞のDNAを攻撃する力があります。
放射線の「直接作用」と「間接作用」でがん細胞のDNAが破壊されると、がん細胞は増殖できなくなります。この作用を利用したのが、放射線治療なのです。なお、X線によるがんの治療効果は、「直接作用」よりも「間接作用」の方が大きいことがわかっています。