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手術療法

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子宮体がんの3つの治療法
その1 治療の柱になる「手術療法」

子宮体がんの治療は、基本的には手術が第一選択です。 例外となるのは、高齢や身体の状態が悪いなどの理由で手術ができない患者さんです。 2018年のデータを見ると、Ⅰ期とⅡ期では約98%、Ⅲ期で96%、Ⅳ期の患者さんでさえ75%が手術療法を受けています。

子宮体がんの手術療法では、子宮をすべて摘出する「子宮全摘出術」が行われます。 「子宮全摘出術」には3種類の方法があり、それぞれ切除する範囲が異なります。

子宮摘出と同時に、基本的にリンパ節郭清と卵巣の摘出が行われます。ただし、初期がんの患者さんのうち、いくつかの条件を満たす場合のみ、リンパ節郭清を省略することがあります。

またⅠ期の患者さんで、妊娠を強く希望する場合、いくつかの条件を満たす場合のみ妊孕性(にんようせい)温存のため「子宮全摘出術」を行わず、代わりに黄体ホルモン療法を行う場合があります。

手術療法には、3つの方法がある

子宮体がんの手術療法で行われる「子宮全摘出術」には、3種類の方法があります。 それぞれ切除する範囲が異なっていて、切除範囲が小さい方から順に「単純子宮全摘出術」「準広汎子宮全摘出術」「広汎子宮全摘出術」です。

子宮体がんの「子宮全摘出術」では子宮を摘出すると同時に、一般的に以下の2つの処置も行います。

①卵巣と卵管を摘出
②リンパ節郭清(子宮の周辺のリンパ節を切除する)

卵巣と卵管を摘出する理由は、子宮体がんは卵巣や卵管に転移している場合が多いからです。 加えて、子宮体がんと卵巣がんが同時に起こっている場合もあるため、卵巣と卵管を摘出します。 卵巣と卵管を摘出する詳しい理由と、温存の可能性については、「 卵巣の摘出はどうしても必要なの? 」をご覧ください。

 

「リンパ節郭清」を行うのは、切除したリンパ節を詳しく調べ、転移があるかを確認するためです。 リンパ節に転移がある場合、進行期分類はⅢ期に相当し再発リスクが高いことがわかっています。 そのため、「リンパ節に転移がある」とわかった場合は、再発リスクを下げるために「術後補助療法」と呼ばれる治療を追加します。 なお、「リンパ節郭清」は省略できる場合があります。詳しくは「 「リンパ節郭清」は省略できないの? 」をご覧ください。

1) 単純子宮全摘出術

3種類のうち、最も切除範囲が狭い方法です。子宮の周りの組織は、できる限り残すことができるように切除を行います。
子宮を摘出すると同時に、卵巣と卵管も合わせて摘出します。 合わせて、ごく初期の子宮体がん以外では、子宮体がんの所属リンパ節も切除します。

2) 準広汎子宮全摘出術

「単純子宮全摘出術」よりも少し広い範囲を切除します。子宮だけでなく、子宮を支える役割を果たしている基靭帯(きじんたい)の一部と、腟も一部切除します。
子宮を摘出すると同時に、卵巣と卵管も合わせて摘出します。合わせて子宮体がんの所属リンパ節も切除します。

3) 広汎子宮全摘出術

「準広汎子宮全摘出術」よりも広く切除します。子宮だけでなく、基靭帯と膀胱子宮靱帯(膀胱と子宮をつなぐ組織)、腟も十分に切除します。主にⅡ期患者さんに対して行われます。

子宮を摘出すると同時に、卵巣と卵管も合わせて摘出します。合わせて子宮体がんの所属リンパ節も切除します。

ほかの2つの方法と比べると広い範囲を切除することになるので、膀胱や直腸に関連する神経が広範囲に切断される場合があります。 そのため、術後に排尿のトラブルなどが起こることがあります。

初期の子宮体がんでは体への負担が少ない「低侵襲手術」も行われている

子宮体がんの手術の進め方には、「開腹手術」「膣式手術」「低侵襲(ていしんしゅう)手術」の3種類があります。「低侵襲」とは、患者さんに与えるダメージが少ないという意味です。

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低侵襲手術は現在、術前の進行期分類IA期のみに保険収載されています。 2018年のデータを見ると、特に初期の子宮体がんで「低侵襲手術」の割合が高いことがわかります。 ⅠA期では42.5%、ⅠB期18.9%、Ⅱ期16.2%となっています。

出典:婦人科腫瘍委員会報告「2018年患者年報」

「低侵襲手術」には「腹腔鏡下手術」と「ロボット支援下手術」の2種類がある

患者さんの体に与えるダメージが少ない「低侵襲手術」には、「腹腔鏡下手術」と「ロボット支援下手術」の2種類あります。 現在は2つのうち「腹腔鏡下手術」が主流で、ⅠA期の「低侵襲手術」の内訳を見ると、 2014年4月に保険収載された「腹腔鏡下手術」が約9割、2018年4月に保険収載された「ロボット支援下手術」は約1割ですが、今後は「ロボット支援下手術」が増えてくると思われます。

1) 腹腔鏡下手術

「腹腔鏡下手術」は「内視鏡手術」と呼ばれることもあります。 「開腹手術」では、お腹を大きく切開しますが、腹腔鏡下手術では5mm~12mmの穴を3〜5ヶ所開けるだけです。そのため、患者さんの体に与える負担は小さくなります。

開けた穴にはポートと呼ばれる器具を挿入。 その後、ポートの1つから腹腔鏡を挿入します。腹腔鏡にはカメラがついていて、お腹の中の様子をモニターで見ることができます。 残りのポートからは、鉗子(かんし)と呼ばれる器具を挿入します。鉗子の先端には、はさみ、電気メス、組織を把持する鑷子(せっし)などが付いています。 モニターを見ながら、鉗子を操作することで手術を進めていきます。


2) ロボット支援下手術(ダヴィンチ手術)

「ロボット支援下手術」は、ロボットが自動的に進める手術ではありません。 あくまでも、手術を行うのは医師で、ロボットの役割は医師が行う手術を「支援すること」です。 そのため「ロボット支援下手術」という名前がつけられているのです。

「ロボット支援下手術」で使用されるのは、医療用のロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」です。 医師は、ロボットアームを操作しながら手術を進めます。そのため、医師が自分の手で器具を操作しながら行っていた従来の「腹腔鏡下手術」よりも、正確で細かい手術が可能です。 さらに、「ロボット支援下手術」で得られる患部の画像は、3D化されているため、従来の「腹腔鏡下手術」よりも、医師は「開腹手術」に近い感覚で手術を行えます。


ダヴィンチを使った「ロボット支援下手術」、その特徴とは?

1) 医師の操作通りに動くロボットで正確な手術が可能に

「ロボット支援下手術」に使用される医療用ロボット「ダヴィンチ」は、3つの装置で構成されています。

手術を担当する「執刀医」は、『サージョンコンソール』と呼ばれる装置に着席して、ハンドルを操作します。

すると、執刀医の操作通りに、『ペイシャントカート』と呼ばれる装置についているロボットアームが動きます。 ロボットアームの先には鉗子が取り付けられているので、執刀医の操作通りに鉗子が動きます。 ロボットアームには、人の手とは違って“手ぶれ”がありません。また、人の手や腹腔鏡の鉗子よりも可動域が広く、細かく正確な動きが可能です。 そのため、従来の腹腔鏡下手術と比べると、より正確な手術を行えるのです。

ダヴィンチには『ビジョンカート』と呼ばれる装置もあり、ここには、執刀医がサージョンコンソールで見ているのと同じ画像が表示されます。 この画像を見ることで、手術スタッフは、執刀医と同じ情報を共有できます。


2) 「関節」によって自由度が高い手術が可能に

従来の「腹腔鏡下手術」で使われる鉗子は、細長い棒状の器具です。そのためお腹の内で鉗子の先を動かす際に、動かせる範囲には制限がありました。

一方、ダヴィンチのロボットアームに取り付けられる鉗子には「関節」がついているので、角度を変えたり、回転させたりすることができます。 そのため、狭い腹腔内でも、これまでよりも自由な方向や角度から手術を行えるようになったのです。


「開腹手術」と「腹腔鏡下手術」メリットとデメリットは?

 

現在のところ、「低侵襲手術」で一般的なのは「腹腔鏡下手術」です。 「開腹手術」と一般的な「低侵襲手術」である「腹腔鏡下手術」を比べると、以下のようなメリットとデメリットがあります。 ただし、患者さんの状態によっては保険内で腹腔鏡下手術をできない場合もあるため、実際に選択する際には主治医の先生と相談しましょう。

手術療法の合併症

1) リンパ浮腫

手術の際、子宮摘出と同時に行われるリンパ節郭清によって起こります。 リンパ節郭清を行うと、リンパ液の通り道であるリンパ節とリンパ管が切除されます。 すると、リンパ液の通り道が少なくなります。その結果、足や下腹部にリンパ液がたまり、むくみなどの症状が出るのです。

 

① 症状
自覚症状は、むくみがある、左右の足の太さが違う、重さやだるさを感じるなどです。 この状態を放置しておくと症状が悪化して、関節が曲がりにくくなるなど日常生活に支障が出ることがあります。

② 予防法 リンパ液の流れをよくするために適度に運動をする、肥満に注意する(体重が増えると発症のリスクが高くなる)、皮膚を清潔に保つ、 感染をしないように保湿をする、無理をしないなどが大切です。

③ 治療 個別の症状に合わせて、以下の4つの治療を組み合わせて行います。 一部はセルフケアも可能で、そのための指導も行われます。

そのほかにも、症状によっては「リンパ管吻合術」という手術療法が行われることもあります。

 

「リンパ管吻合術」とは? リンパ浮腫は、リンパ液が皮下組織にたまることで起こります。 皮下組織にリンパ液がたまってしまうのは、「リンパ節郭清」を行うことでリンパ節を運ぶ「リンパ管」が閉塞してしまうからです。
「リンパ管吻合術」は、リンパ管が閉塞した部分(足の付け根)より先(下肢)にリンパ管と静脈をつなぐバイパスをつくる手術です。 完成したバイパスによって、たまっていたリンパ液が回収されることで、リンパ浮腫の症状改善が期待できます。

④ リンパ浮腫の治療は保険で行える
リンパ浮腫の治療の一部は、保険適用が認められています。

⑤ リンパ浮腫の治療を受けられる病院はどのように探せばいい? 国立がん研究センターがん情報サービスには「病院を探す」というコンテンツがあります。
https://hospdb.ganjoho.jp/


上記のページ内に、「がん診療連携拠点病院などのリンパ浮腫外来を探す」というメニューがあります。ここから「リンパ浮腫外来」がある医療機関を探せます。

2) 排尿のトラブル

主にⅡ期の患者さんに対して行われる「広汎子宮全摘出術」では、子宮を支える役割を果たす「基靭帯(きじんたい)」を広く切除します。 基靭帯の下には、排尿に関係する神経が走っているため、広汎子宮全摘出術の後に排尿障害が起こることがあります。
症状は、以下のようなものです。

◯尿がたまった感じがわかりにくい
◯尿を出しにくい・残尿がある など

個人差がありますが、多くの場合、手術後数週間から数カ月で改善します。 ただ、残尿が多く残ってしまう場合は、退院後も一時的に「自己導尿」が必要になる場合があります。 「自己導尿」は、ご自身で細いストローのような管を尿道に挿入し、排尿することです。

3) 腸閉塞

手術をすると、しばらくの間、腸の動きが悪くなります。 また、おなかの中の創と腸の癒着が起こることがあります。 その結果、腸内の食べ物や水分の流れが悪くなり、腹痛、嘔吐、ガスが出にくくなるなどの症状が出て、食事がとれなくなります。

多くの場合、一定の期間、食事をとるのをやめて腸を休めることで回復します。 ただ、ごくまれに、腸にチューブを入れる処置や手術が必要になる場合があります。

4) 卵巣摘出による、更年期症状と同様の症状

閉経前の女性が、子宮体がんの手術療法を受けて卵巣を摘出すると、卵巣から分泌されている女性ホルモン「エストロゲン」が供給されなくなります。 その結果、ほてり、のぼせ、発汗などの卵巣欠落症状が起こります。こうした一連の症状は「ホットフラッシュ」と呼ばれています。

ホットフラッシュは、更年期障害の症状としても知られています。 更年期になると卵巣から分泌されるエストロゲンの量が減り、ホットフラッシュが起こります。 これと同じことが、閉経前の女性が子宮体がんの手術療法を受け、子宮と同時に卵巣を摘出した場合にも起こってしまうのです。

卵巣の摘出によってエストロゲンの分泌が止まると、ホットフラッシュ以外にも、骨粗鬆症、脂質異常症(高脂血症)、 心臓や血管系の病気になるリスクが高くなるといった影響があることがわかっています。 卵巣の摘出を行った後、患者さんの状態を診断して、エストロゲンの補充が必要だと判断された場合、「ホルモン補充療法」が行われます。

ホルモン補充療法とは?
薬剤を使ってエストロゲンを補充する治療です。 「ホットフラッシュ」をはじめとした症状は、卵巣摘出でエストロゲンの分泌が止まった結果起こっています。 そこで、外部からエストロゲンを補充することで、「ホットフラッシュ」などの症状の改善を目指します。 しかし、子宮体癌はそのエストロゲン被曝によって発生したがんであるので、投与には注意が必要になります。 詳しくは、「 卵巣摘出後「ホルモン補充療法」で女性ホルモンを補うことも可能 」をご覧ください。

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